映画の中の食事(2)
前回に引き続き、映画のなかで妙に美味そうだった場面や、これはちょっと・・・という食べ物を集めてみた。
まずはヒューマン映画「グリーンブック(2018)」。時は1962年、演奏旅行中の黒人ピアニスト、ドン・シャーリーが、人種差別の色濃く残るケンタッキー州に入るやいなや、フライドチキンで歓待されるシーン。「ケンタッキーに来たらこれを食べないとね」というセリフからすると、本当に名物だったんだね。しかし、果たしてこの好意は真意なのか?それにしてもあんなに山盛りにされたら、美味しいものも美味しく見えないよなあ。
バディものの「48時間(1982)」では司法取引のご褒美としてご馳走を期待したチンピラのエディ・マーフィーに、刑事役のニック・ノルティーが「ほら、今日のディナーだ」と自販機のスニッカーズ(だと思う)を投げてよこすシーンがある。思えばあれがスニッカーズを知るきっかけだったかもしれない。ついでに言うと、この映画には「ラップ愛好家」なるセリフが出てくるが、日本ではまだ音楽としてのラップが広まってなくて、「(食べ物を包む)ラップを、どうやって愛好するんだろう?」なんて思った記憶がある。
サスペンス映画の傑作「夜の大捜査線(1967)」では、これまた人種差別の残るミシシッピ州の小さな町で、拘留中の囚人から情報を得るために、シドニー・ポワチェ扮する黒人刑事がハンバーガーの差し入れを約束する。現物は出てこないのだが、刑事が「タマネギも入れるんだろ?」と聞き、囚人が「わかってるじゃねえか」と嬉しそうに笑うシーンがある。会話が美味しそう。同じく現物は出てこないが、SFの金字塔「2001年宇宙の旅」の続編「2010年(1984)」では、木星の軌道上で宇宙船のクルーが、ヤンキースタジアムのホットドッグを懐かしんで語り合うシーンがある。「カラシは茶色か?それとも黄色?」「茶色」「そう来なくっちゃ」この会話も妙に美味そうだ。要するに辛い方が通好み、ということですね。確かに、そのへんで売ってる黄色いマスタードって、全然辛くないもんな。
西部劇「リオ・グランデの砦(1950)」では、偵察か何かで疲れ切った騎兵隊員に、待っていた仲間が「これしかないんだ」と豆の缶詰を渡すシーンがある。あんなんで戦えるのかと心配になってしまう。もらった方も「豆かよ」なんてぼやいていた。何よりも舞台となる1800年代後半に缶詰があったことにびっくり。調べてみたら発明されたのは1810年(日本だと文化7年。江戸時代ですね)。日本でも1877年(明治10年)には量産が始まったそうだ。わりと早い時期からあったんだね。ちなみに缶切りが発明されたのは1858年。それまでは映画にもあるようにナイフを使うか、専用のノミや斧、時には銃で撃ったりもしてたんだってさ。一方「ワイアット・アープ(1994)」ではステーキを食べるシーンがやたらと美味そうだ。やっぱ金持ってるヤツは違うな、なんて思ってしまう。現実のワイアット・アープは結構汚く稼いでいて、1929年(昭和4年)まで生きていた。
さて、アニメ映画では、まず「レミーの美味しいレストラン(2007)」に出てくる「ラタトゥイユ」をあげておこう。あの冷酷な評論家、イーゴの心を氷解させた思い出の味。何より盛りつけが素晴らしい。うちでも時々作るけど、見かけはまったく別の料理になっちゃう。そういえば映画の始めの方で、レミーが屋根の上で調理するキノコも妙に美味しそうだったなあ。どちらもちょっと食べてみたい。一方「ラマになった王様(2000)」では、レストランの「本日のスペシャル」として長さ50㎝はあろうかというダンゴムシが提供されていた。古代の中南米にあんなのがいたとも思えないが、その食べ方がまたすさまじい。どろどろの内臓だか身だかをストローで啜った後、残った殻をバリバリとかみ砕く。こっちは絶対食べたくない。
次はホラー・サスペンス、「ハンニバル(2001)」。終盤で宿敵(?)に自分の脳を食べさせるシーンは置いておいて、ここでは映画のラストに注目だ。旅客機で逃亡中のレクター博士がディーン&デルーカ(※)のディナーボックスを開けた時、近くにいた子どもがじっと見ているので「どれが食べたい?」と聞くシーンがある。子どもが「これ」と指さしたのは、何かの脳みそ料理。レクター博士は「新しい味に挑戦するのは大事なことだね」なんて言いながら、口に入れてやる。直前に人間の脳を食べるシーンがあるので、勘弁してって感じ。
最後は黒澤映画の傑作「七人の侍(1954)」に出てくる握り飯。ただの白い握り飯(時代背景から言っても、まだ海苔は出回っていない)なのだが、炊きたての白米の匂いまでしてきそうだ。この感覚がわかるのは日本人だけだろうねえ。
※ 米国の有名な高級食材店(現在は閉店)。映像で確認したところ、ボックスの中身はフォアグラ1切れ、ベルーガ(大粒)キャビアの小瓶、小さなタッパーウエアに入った何かの脳が3切れ、他にクラッカー3枚、ベークドポテトに見えるものが半個、各種フルーツ、チョコレートとおぼしきもの。ワインはシャトー・フェラン・セギュール(フランス・サンテステフの銘醸赤ワイン)の1996年(ハーフボトル)。ご丁寧なことに、これらの情報を克明に読み取れるカットがある。