あの時と同じ空
高校生の時、Kという友人がいて、自転車で遠路はるばるうちに遊びに来てはいろいろな話をしたものだった。 彼が帰るときには、途中まで送っていき(別に変な関係ではない、僕は自転車を走らせることが好きで,散歩?がてらに送っていったのだ)、時には近くの神社でさらに話し込んだ。この神社が気持ちのいい場所で、僕の住んでいた街を見下ろす高台に立っていた。神社にしては珍しく、大きな木が少なく空が広く開けていた。 その日も僕たちは傾き始めた日差しのなか、小さな駐車スペースに自転車を止めると、階段を上って境内の片隅にある草むらに身を投げ出した。その時見た空が今も忘れられない。真っ青な空のとても高いところにうっすらと雲があり、それがゆっくり動いていた。その時、なぜだろう、「ああ、地球は本当に回っているんだなあ」と感じた。もちろん理屈では、単に雲が風にのって動いているのだとわかっているのだが、僕の感性の部分が「地球が回っている」と感じ取ったのだ。 友人には申し訳ないが、その時何を話したかは全く覚えていない。ただ、広い空の高みをゆっくりと動いていく雲のイメージだけが、今も脳裏に焼きついてる。
時が過ぎ、僕が実家を離れたあと、あの神社があったあたりに国道のバイパスが通った。あの神社がどうなったか心配だったが、帰省した際に確かめてみると、ぎりぎりまで山が削り取られてはいたものの、神社そのものはしっかり残っていた。そして、山が削り取られたためにその鳥居は遠くからでも望めるようになった。
大人になった僕は、今でも自分の住んでいる街の空を見上げることがある。時代が変わり、人の心が変わってしまっても、空はあの時と少しも変わっていないからだ。