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 SFにおける宇宙船のデザインについて(2)

 (前回より続く)ところでずっと気になってたんだけど、「宇宙戦艦ヤマト」のロケットノズルは本当に必要なのだろうか。映像では波動エンジンと連動しているようにも見えるが、設置されている理由がよくわからない。そういえばスター・ウォーズの「スター・デストロイヤー」もロケットノズルがあったっけ。ところで皆さん、知ってます?実はスター・トレックの「エンタープライズ」もノズルをもっているんだよ。通常航行用インパルス・ドライブのためのもので、ちょっと見ノズルには見えないデザイン。噴射するのはプラズマ変換された重水素だそうだ。エネルギーはワープ・ドライブの推進器と共通。合理的。でも後に主機が不調でも緊急航行できるように独立したシステムとなる。

 合理的といえば、映画と言わず小説と言わず、SF作品を作る側は、その世界観に合理性を持たせるために数多くの発明をしてきた。たとえば「機動戦士ガンダム」の世界には「ミノフスキー粒子」なるものが存在する。レーダー等の探知装置を無効化するので、目視による接近戦が必至となる。だからモビルスーツのような白兵戦兵器が重用され、感覚の鋭い「ニュータイプ」が兵士として必要になったわけだ。ここでちょっと突っ込みを入れると、視覚重視、しかも暗い宇宙で戦うのにガンダムやホワイトベースのようなカラーリング(白が基調)って、普通に考えてまずあり得ないよな。

 「レンズマン」シリーズや「スカイラーク」シリーズで有名なSF作家、E.E.スミスも「バーゲンホルム機関」なるものを発明している。これは慣性をゼロにする装置で、これを作動させればどんなに急激に加速、あるいは減速しても、宇宙船の中には何の影響も生じない。つまり、Gを感じない。だから人体の限界を考慮することなく、推進装置の性能いっぱいの加速・減速ができる。逆にこの装置がないと、超高速から何らかの理由で緊急停止した際に、搭乗クルーは前方の壁に叩きつけられて全員死亡!もっと言うなら、船体に固定されていないもの全てが速度を維持したまま船首を突き抜けて飛んでいく、なんてことが起こりかねない。これに近い状況を「シドニアの騎士(※1)」でやってたっけ。

 ところで前出の「エンタープライズ」には、航路上に無数に存在するスペースデブリ(微少なチリ)を除去するための「デフレクター」なる装置がある。いかに微少なチリとはいえ、光速に近い速度で船体に衝突するととんでもない損害を与えるからだ(※2)。さらに面白い話として、ワープ航法では相対性理論の影響を受けない設定だが、通常航行用のインパルス・ドライブではいわゆる「ウラシマ効果(後述)」が発生するため、使用は光速の25%のスピードまで、と制限されているそうだ(システム上は80%まで可能)。「スタートレック」ではこうしたマニュアルが早い時期から細かく設定されていた。それを解説した文献もあるぐらいで、初出は1966年ながら、実にマニアライクなシリーズだったのである。

 要するに、本気で超高速航行を実現しようとすれば、それに付随して解決しなければならない問題が山のようにあって、単に推進器の開発だけでは終わらない、ということだ。たとえば、宇宙では「普通に止まる方法」も考えないといけない。宇宙空間はほぼ真空なので、自動車のようにブレーキをかける(何かとの摩擦によって止まる)ということができないからだ。勿論飛行機のエアブレーキも無効。原理的には船体を180度回転させ、出発したときと同じ加速度で同じ時間「逆」推進し続ければ止まることは止まる。けれど、この方法ではいつ、どこで止まるかをあらかじめ決め、かかる時間を逆算して停止するためのプロセスを開始する必要がある。これではストーリーが成立しにくい。だから最近のSF作品ではこのあたりは良心的(?)にスルーしていて、難しい理論や技術は「解決済みの既成事実」として扱われることが多い。しかも光速を越えて移動しても時間の遅れなんて生じない。相対性理論から何から、全部無視。実際そうでもしないと、たとえば超高速で逃げ出したルーク・スカイウォーカーが、戻ってきてみたらダースベーダーは老衰でとっくに亡くなっていました、なんてことになる(これがいわゆるウラシマ効果)。話が進まないよね。いや、進み過ぎか。だったらもういいやって。一時期考証にこだわりすぎた時代があって、ぐるーっと一回りしちゃったんだろうねえ。

※1 日本のSF漫画作品。後にアニメ化(2014)。全長35㎞に及ぶ植民船「シドニア」が地球外生命体から攻撃を受けた際、緊急に急旋回・急加速等の回避行動を行ったために警報が間に合わず、身体を固定できなかった搭乗員が慣性によって内壁に叩きつけられ、多数が死亡するという場面がある。

※2 直径3ミリの小石が1立方メートルあたり100個浮かんでいるとして、それらが音速で人体に衝突したらどうなるかを想像してみてください。小石がもっと小さくても、衝突速度が大きくなれば同じ事。物体の持つエネルギーは、速度の二乗に比例するからだ。

作成者: 835776t4

こんにちは。好事家の中年(?)男性です。「文化人」と言われるようになりたいなあ。

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