SFにおける宇宙船のデザインについて(1)
宇宙SF映画のブームが一段落して久しい。最近大がかりな宇宙もののSF映画を見た記憶がほとんど無い。「デューン」が再映画化されたぐらいか。マニアとしては少し寂しい。一時期、「スター・トレック」「スター・ウォーズ」「宇宙空母ギャラクティカ」といったシリーズが次々に制作され、スクリーンは斬新なデザインの宇宙船で埋め尽くされていた。ことに「スター・ウォーズ」では、戦闘艦や商業船・貨物船、果ては個人所有のものまで数多くの宇宙船が登場した。ただし、「遠い昔、遥か銀河の彼方で・・・」ということだから、ここには地球人の宇宙船は登場しない。一説によれば、ある宇宙船のコクピットのスイッチに「トラクター(牽引)・ビーム」と英語で表示してあったそうだが、これは単なるミスかジョークの類いだろう。
その昔、地球人の乗る宇宙船のほとんどは紡錘型、いわゆる「ロケット」で、炎を噴射しながら宇宙を飛びまわった。一方異星人の乗り物は言わずと知れた「空飛ぶ円盤」。じゃあ、人類が円盤に乗ることは全くなかったかというとそうでもなくて、1956年の映画「禁断の惑星」では「C-57-D」という地球所属の円盤形宇宙船が登場する。これが初めて人類が「円盤」に乗った記念すべき瞬間らしい。その直後の「宇宙家族ロビンソン」というTVシリーズでも「ジュピター2号」なる円盤形宇宙船が使われていた。そしてこの時期にTV放送されていたもう一つの宇宙SFシリーズが「スター・トレック」だった。ここに登場した「エンタープライズ号」のデザインは今までに類を見ない斬新なもので、「遠い未来、宇宙船はこんなふうになっていくであろう」という説得力にあふれていた。一方SF小説の世界では、「宇宙船ビーグル号」や「スカイラーク号」など、完全な球形のものが登場している。これらはスター・ウォーズに登場した「デス・スター」の原型と言ってもいいだろう。ただし「デス・スター」はどちらかといえば「軌道要塞」で、長距離航行ができるかどうかはわからない。
1955年の「宇宙征服」は、当時としてはよくできた映画で、ここには火星探検用の有人宇宙船が登場する。地球の衛星軌道上で建造されるので、地球の重力場を脱出するための燃料を必要としない。球形の往路用燃料タンクは剥き出しで、火星到着前に破棄される。巨大な翼を持った本体は、当時火星の大気にある程度の気圧が期待されていたことから、火星着陸のための滑空に使われた。最後は本体の一部を垂直に立て、ロケットとして帰途につくという、当時の科学技術に裏付けられた、現実味のある構造をしていた。出発時に強大な加速Gによってクルーの顔が歪むシーンがあって、なかなかリアル。でもどうやって撮ったんだろう。後に日本のSF特撮映画「妖星ゴラス(1962)」がマネをしていたが、こちらは掌で引っ張っているのが見え見えだった。そして1968年、のちにSF映画の金字塔と言われる作品が登場する。「2001年宇宙の旅」だ。
「2001年宇宙の旅」は、完璧主義者であるスタンリー・キューブリックと、英国惑星間協会の会長でもあったハードSF作家、アーサー・C・クラークのタッグによって生まれた。ここに登場する有人木星探査船「ディスカバリー号」は「宇宙征服」の火星探査船の延長上にあると言っていいだろう。同じように衛星軌道上で建造され、推進システムは原子力イオン・プラズマ方式。当時から実現可能とされていた遠距離航行用のシステムだ。原子炉はクルーの安全確保のため、エンジンブロックと一体化して居住区から最も遠い最後尾に置かれ、船首の球形居住区の赤道部は常に緩やかに回転していて、遠心力によって疑似重力を発生させている。居住区とエンジンブロックを繋ぐ細長い船体は物資の貯蔵タンクと地球との交信用アンテナで構成され、その外壁には各種装置や配管が剥き出しになっている。この発想は後の「スター・ウォーズ」などの宇宙船のデザインにも取り入れられ、これ以降、宇宙船の外壁が細かなディテールで埋め尽くされるようになった。こうしてモデラーの悪夢の時代が始まったのである(なんのこっちゃ)。
勿論流麗なデザインの宇宙船も無いわけではない。日本のSF大河小説「銀河英雄伝説」がアニメ化された(1988年の劇場版)際の、帝国軍将官ラインハルトの搭乗艦である旗艦「ブリュンヒルト」(なぜSFにおける「帝国」は、どれもこれもドイツっぽいのだろうか?)のデザインなど、秀逸と言っていい。
最近ホラーやSFの分野で頑張っているのがロシア映画。ドラマはイマイチながら、目を見張るようなCGがウリ。SFで特に印象に残っているのが「アトラクション 制圧(2017)」。ここに登場する異星人の宇宙船は、昔流行った「地球ゴマ(独楽)」のようなデザインでなかなか印象的だった。ロシアもやるじゃないか。戦争なんかしてないで、もっと映画作れよ。そういえば似たようなメカで、これは宇宙船ではないけれど、「コンタクト(1997)」に登場した「空間移送装置」も良いデザインだった。原理はよくわからないのに説得力だけは半端じゃなかった。ついでに言うと、主役を演じた30代のジョディ・フォスターが綺麗だったなあ。間近に見る銀河系中心部の景観に負けてなかった気がする。
最期に、とても気に入っている宇宙船のデザインをひとつ紹介する。これを初めて見たとき、「人間にこんなものがデザインできるんだ」と、マジで思った。それが、今ではSFホラー映画として有名な「エイリアン(1979)」に登場する、異星人によって遺棄された宇宙船。スイスの幻想画家、H.R.ギーガーによるデザイン(ちなみにエイリアンそのものも彼がデザインした)。「ギーガーさん、あんた、本当は人間じゃないでしょう」と言いたくなるほど人間離れしたデザインだった。当時はどっちに飛ぶのかさえわからなかったもんね。