カテゴリー
未分類

 またしても老医師にしてやられた話。

 先日、人間ドックで引っ掛かった肝臓の再検査に行ってきた。人間ドックを受診した昨年10月以降、アルコールの摂取量は3割ほど落としてきたつもりだ。その結果がどう出るかが今回のキモだ。

 そもそも僕はかかりつけの病院というものがないので、大腸ポリープの時にお世話になった総合病院を4年ぶりに訪れた。例によって紹介状があるので、今回の受診もサクサクと進む。診察室1、担当医は・・・関西の大都市のような名前の先生だ。入室すると、見事な白髪の、僕より二十は年上であろう老医師が椅子に座っていた。何だろう、この感じ。前にもこんな経験をした覚えがあるぞ。

 簡単な問診のあと、血液検査に回された。予想どおりの展開だ。結果が出るまで45分ほど待ち、再び診察室へ。椅子に座ると、老医師はおもむろに語り始めた(言っておくが、僕は今、意図的に「語り始めた」と表現したんだよ)。「今日の結果には異常は無いね。でも去年の10月の頃は問診票に書いてあるよりも飲んでたよね?」「はあ、1.5倍ぐらい・・・」「でしょ?そうじゃないかと思ったんだ。しかもビールだけじゃないでしょ。」「まあ、ジンとかテキーラとか・・・」「うん、そうだろうねえ。でも、生活習慣の改善でここまで数値が戻ってるから、今の飲み方を続けるといいね。肝臓そのものには異常は無いようだから。それでね、この、血圧なんだけど、いつもこんなに高いの?」「そうですね。でも、ドックで再検査とか言われたことは一度も無くて・・・」「うん、医者もいろいろだからねえ。」「・・・いろいろ、なんですか。」「うん、そう。それで、仕事のほうは?」「今は在宅ですかね。」「在宅かあ。いいなあ。家に居て、特にストレスとかは溜まってたりしない?暇をつぶす趣味とか持ってるの?」「ストレスは別に感じてないですね。趣味はむしろ多い方で、たとえば料理とかプラモデルとか。」実は僕がこう答えたことでその後の会話の流れが変わってしまったんだなあ。老医師の目が急に輝きだして、「料理するんだ。僕もやるんだよ、料理。どんな料理作るの。」「結構時間のかかる、凝った料理もやりますね。」「いいねえ。でも本見て作るばかりじゃダメだよ。家にある材料で、いかに美味しいものを作るか、とか。そうするとね、頭使うから脳が活性化して、ボケがこない。」「あ、僕もそれ、よくやりますよ・・・先生、もしかしてハイカロリーバーナーとか持ってます?」この問いかけは火に油を注いでしまったようだ。「勿論あるよ。1万キロカロリーの(聞き違いでなければ、彼は確かにそう言った)やつが。中華料理には必需品だから。」彼はそう言うとおもむろに自分のスマホを取り出し、画像データをスクロールし始めた。何だか嫌な予感がする。

 何回も何回も指を動かした末に、「これ」と差し出したスマホの画面には、確かにごついハイカロリーバーナーが映っていた。さかんにスクロールしていたのは作った料理の画像だろうか。ここでスライドショーとかは勘弁して欲しい。ふと気付くと、後ろに立っている女性看護士が、「また始めやがったよ、こんにゃろめが。患者も患者だ、アホなネタ振りやがって」という顔をしている。これはヤバイ。このままでは敵の術中にはまる。何とかしないと。「と、ところで、血圧の方なんですけど・・・」「ん?ああ、血圧か。血圧ね。これ、ちやんと受診して降圧剤もらった方がいいよ。降圧剤飲むと、寿命が5年延びるからね。あー、煙草も吸うんだね。そろそろやめたら?やめてもいい歳だよ。煙草やめると寿命がさらに1年延びる。」どうやら軌道修正は成功したようだ。老医師は話し足りないような顔をしていたが、こうして僕は、這々の体で診察室をあとにしたのだった。

 この記事は会話の部分をかなり端折っていて、実際には料理に関するご高説を他にもたくさん拝聴した。肝臓の話をどのくらいしたかは憶えていないが、それ以外の話題の3割にも満たなかったと思う。またこれかよ。僕はこうした状況を引き寄せる何かをもっているんだろうか?

作成者: 835776t4

こんにちは。好事家の中年(?)男性です。「文化人」と言われるようになりたいなあ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です