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 趣味と実益

 よく「趣味と実益を兼ねる仕事」なんて言う。だが僕に言わせればそんなものは存在しません。まあ、例外はあるだろうけど。

 最近の子供たちに将来何になりたいかを聞くと、その答えは大きく二つの傾向に分かれるようだ。一つは「会社員」。昔の「公務員」と同じで、毎月決まった額の給料がもらえるから、というのがその理由だ。もう一つは「Youtuber」。これは80年代の「ミュージシャン」に近い。「なりたい人」に対する「なれる人」の割合(「Youtuber」だったら「稼げる人」の割合)が微妙に少ない、という意味において同等、という気がする。

 そういえば、僕の知り合いにプロのミュージシャンになった人がいる。最初、彼は自分のバンドを作ってデビューしたんだけど、結果的にはアルバムを1枚出しただけで終わった。でも彼のドラマーとしての技術は本物だったので、その後長らくアン・ルイスのバックバンドのドラマーをやっていた。僕の住んでいる街にアン・ルイスが来たとき、コンサート後に、たまたま僕の行きつけのカフェ・バーに、彼がバックバンドの面々を連れてきたことがあった。それは単なる偶然だったんだけど、昔話に花が咲いたことは言うまでもない。今はどうしているのかな。あ、そういえばもう一人、プロドラマーの知り合いがいた。自己申告で知ったのだが、何しろステージの上では動物の頭をかぶっているので、真偽の程は定かではない。

 それはさておき、若者に将来の夢を聞くと、たまに「趣味と実益を兼ねる仕事」なんて答えが返ってくることがある。でもねえ、さっきも書いたけど、そんなものはまず存在しませんよ。

 僕は絵が描けるので、若い頃絵を売ったことが何度かある。売れるのは嬉しいのだけれど、その頃よく「お金は必要なんだけど、この絵は売りたくないなあ」とか、「この人に頼まれたモチーフを、描きたくもないのに金のために描くのか」などと思いながら絵を描いていた。つまり、その時点ですでに趣味の範疇じゃなくなっていたんだね。

 趣味というのは、やりたい時にやる、自分の楽しみのためにやる。そういうものだと思う。例えば絵を描くのだったら「この風景を描きたいから描く」とか、「このモチーフを絵にしてみたいから描く」ということだと思うんですよ。それが、金のためであるとか、依頼主に対する責任から描くとかであれば、それはもはや趣味じゃない気がするんだよなあ。要するに僕の中では、お金の問題もさることながら、趣味と仕事の一番の違いは、趣味には他人に対する責任がないことなんですよ。

 しっかり稼いで時間も確保。その両方を上手く使って趣味を楽しむ。そう考えると、自(おの)ずから理想の仕事は限られてくる。だからといって、たとえ理想的な仕事に就けたとしても、そう上手く行くとも限らない。そんな状況で、自分がどう工夫して収入と時間を確保するか。問題はそこだろう。

 そういえば、理想の職場を追求するためかなんか知らんけど、昨今、転職するのが当たり前、といった風潮がある。これってどうよ。あんまり煽らない方がいいと思うんだけどなあ。今いる職場がよほどのブラック企業、というのなら話は別だが、そうそう理想的な職場なんて見つからないと思う。さっさと慣れちまった方が手っ取り早い気がする。だいいち、職場を転々として退職金を目減りさせるのがオチ、というのでは話にならない。それにまだ社会というものをよくわかっていない若い人たちもいるわけだからね。もっとも、転職が趣味です、というのならその限りでもないけど。