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 断捨離の日々 6 プラモデル その2

 (前回の続き)15分ほどして先方から返信の電話がかかってきた。「どうも先ほどは。それで出張買取の件なんですが、担当者が行くって言ってます」「えっ!それはありがたい。でもまた、どうして…」すると電話口の彼は笑いながら「いやあ、こういう商売をしていると、スタッフも趣味人が多くて…彼は釣りが好きなんですが、お宅がひたちなか市だと聞いて、ついでに海辺を回って釣り場の情報収集をしてこようかな、と…まあ、そういうわけで」この令和の時代に…なんかいい話だなあ。おかげでこちらも一安心だ。

 出張買取当日、やってきたのはオールバックにした髪を後ろで縛り、ジーンズにレザー風のベストを着た、いかにも趣味人といった体(てい)の男性だった。年齢は40歳前後だろうか。彼が到着したとき、乗ってきた車の音が聞こえたのだが、明らかにマフラーは変えてあった。釣りに車…いや、ホント、趣味人だわ。

 僕からキットの状態を説明した後、彼は「持って帰って検品が済み次第、査定額を電話連絡しますんで」と、今後の段取りを説明し、いそいそとプラモデルを車に積み込み始めた。件(くだん)のドーラ(前回参照)は僕も手伝って、2人がかりで積み込んだ。

 作業が終わった後、僕は彼の車をよく見ようと一緒に外へ出た。彼は「車が好きで、この車体も足回りを組んでマフラーを交換したんですよ。エンジンはいじってないんですけどね」「うん、いい音だな、と思っていました。自分の部屋にいると外を走る車の音が聞こえるんでね」すると彼が「変わった車をお持ちですよね」と言う。「プジョーがお好きなんですね。この後ろに停めてあるのは…」「406のクーペです。一時期有名だった、ピニンファリーナ製のやつ」

 彼は我が家の場所をストリートビューで確認したときに、すでにこの車が気になっていたという。「見たこと無い車が停まってるな、と思ってたんですよ。406クーペは知ってますが、実車を見たのは初めてです。手前のセダンも、これって3ナンバーが2桁なんですね」「今年で27年目かな。プラ製部品はボロボロだけど、まだまだ元気ですよ」「いいですよね、このころのデザインって」そう言いながら彼は車の周囲を回り、いろんな方向から眺めていた。これは車好きの習性だ。

 そんなこんなでしばらく予想外の車談義に花が咲いた。うん、趣味の合う人との会話は、掛け値なしに楽しい。

 話がひと段落したところで、彼は「じゃ、そろそろ行きます」と言って頭を下げた。時刻は正午を回ったところだった。僕が「この後は釣り場探訪ですか」と聞くと、「いや、まあ久しぶりに海でも見ていこうかな、と思って」と答え、彼は照れ臭そうに笑った。「天気が良くてよかった。じゃ、気をつけて」僕はそう言って彼を見送った。

 数日後、ショップから査定額についての連絡があった。ドーラは僕が購入した当時の定価ではなく、最新の販売価格をもとにして査定してくれたようで、多少便宜をはかってもらえたかたちだ。総額も妥当な金額だったので、僕は快く買取に同意した。

 うちにはいまだに100近いキットがある。もちろん純粋なコレクションや作りかけもあるので、しばらく売る機会はないと思うが、これで終わりにしてしまうのはもったいない気がした。でもドーラはもう無いから、次は宅配便で送るパターンだろうなあ。やっぱり一度、お店に顔を出そうかな…。ドーラ様、楽しいひと時をありがとう。

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 断捨離の日々 4 レコード、ネクタイ、ビジネスバッグ 

 今回来てもらったのは、TVでもCMが流れている某総合買い取り業者。電話で確認のうえ、レコードとレーザーディスク(以下LD)、ネクタイ、ビジネスバッグを処分するつもりで出張買取を依頼した。

 やってきたのはまたしても若者で、いきなり「やり取りを録音させていただきます」という。続けて申し訳なさそうな顔でこう言った。「最初にお伝えしておきますが、うちで高額買取できるレコードは…」なんでもごく限られたものだけらしい。CMでのうたい文句とはだいぶ話が違う。しかもLDは買い取れないという。だが電話で対応した女性はそんなことは言っていなかった。

 電話の窓口担当がきちんと教育されていないということは、これは会社の信用の問題だ。こんなことだから末端のスタッフが矢面に立たされる。なんだか僕よりもこの若者のほうが気の毒だ。思ったことをそのまま彼に伝えると「すみません」と言いながら、なぜか少しほっとしたような顔になった。

 査定が終わると、レコードは各々が最低限の査定額、ネクタイは一山での査定だった。

 最後に僕の持っている唯一のメジャーブランド、ヴァレクストラのビジネスバッグを見せた。デザインが気に入って30年近く前に購入し、ブランドについてはその後で知った。ヴァレクストラは当時日本ではあまり知られていなくて、正直僕も初めて聞くブランドだった。今の僕にはもう使う機会がなく、ここ10年ほどクローゼットの奥にしまい込んであったものだ。状態が良かったので、このバッグだけはそこそこの値がついた。なるほど、君の会社はこういうのに食いつくわけね。

 ヴァレクストラの査定が終わると、彼は、他にブランド品はないか、という。「無いよ、俺はブランド品好きじゃないから」「え、どうしてですか」「仮に女性がシャネルのドレスを着てたからって、ドレスばかり目立ってたら、それはファッションとしては失敗だろ?それなら初めから自分を活かすアイテムを選んだほうがいい。ブランドにこだわる必要はない」彼は唖然とした顔をした。僕は続けた。「ノンブランドのものを上手に着こなして、相手に『似合ってますね。どこのブランドですか?』なんて言わせることができたら、それが本物じゃないかな。お洒落って、要は着こなしとか使いこなし、もっと言うなら生き様の問題だろ?カルチェのライターに3年で飽きる人間と、安物のジッポライターを修理しながら40年大事に使い続ける人間と、どっちに魅力を感じる?」

 おそらく今どきの若者は、お洒落だの粋だのという言葉の本当の意味を知らないんだろう。その後も彼がいろいろと聞きたがるので、僕は記録用の録音を止めさせ、さらにいくつか、人生の本質(と、僕が勝手に思っている)めいたことを話した。ほんのひと時、教師に返り咲いた気分だった。

 会話の中でわかったことだが、彼はまだ22歳という若さで、しかも本物の知識に飢えていた。地は良さそうだ。あとは彼が何を吸収し、今後どう使いこなすかだ。

 出張買取とは何の関係もない長い会話のあと、最後に僕はこう言った。「今日聞いた話は頭ン中の引き出しにしまっておいて、使うべき時にだけ引っ張り出すといい。じゃないと今の人にはただの嫌味にしか聞こえないだろうから」「わかりました。引き出しですね」外はもう陽が落ちて、暗くなり始めていた。

 「もう遅いから終わりにしよう。今日はお世話になったね」僕がそう切り出すと、やっと彼は体を動かし、「いえ、かえってありがとうございました」と言って玄関のドアを開けた。そして振り向きざまにこう言った。「またいつかお会いしたいです」それを聞いて、僕のなかでわだかまっていた彼の会社への不快感は吹き飛んでしまったようだ。

 「また何か売れるものがないか、探しておくよ。次は君に直接連絡するから。帰り道、気をつけてな」そう言って僕は彼を見送った。うん、いい若者だったじゃないか。Z世代も捨てたもんじゃないな。