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 好きなジャンル 

 よく聞かれる質問に、「音楽で好きなジャンルは?」というのがある。答えるのがとても難しい。というのも、そもそも好きなジャンルなんてないからだ。僕は音楽を「曲」で選ぶことが多い。例えば、映画音楽で好きな曲とか、ジャズで好きな曲とか、クラシックで好きな曲とかはある。だが、「ジャズ一辺倒です」とか、「クラシック以外は音楽じゃないと思う」なんてことは口が裂けても言わない。このへんは、以前知り合い(年上)に散々厭な思いをさせられたこともあって徹底している。昔、僕がビル・エヴァンス(僕の好きなジャズピアニスト)について話していた時に、「あんなの入門編だよ。本当のジャズはもっと奥深いもんだ」と言われたり、バンド活動をしていて「ロックをやるんならブルースから勉強しないと本物になれない。まずブルースを聴け」と言われたり。おまけに散々蘊蓄(うんちく)を語られて閉口した。確かにそれはそうなのかも知れないが、良いじゃんか、気に入って聞いているんだから。そもそも世代が違うんだから、古い考えを押しつけないでほしい。まるで頑固オヤジとケンカしているようなものだ。音楽なんだから、その時代の解釈があって当然だ。そうでなければ、パンクロックやプログレッシブロックなんて生まれてくるわけがないのだ。それに、ジャンルやルーツにこだわることで、それにそぐわない音楽の良さを認めようとしない態度も納得できない。

 僕はバンドでハードロックを演奏し、カラオケでJポップを歌い、家で飲みながらジャズを聴く。時にはポールモーリアに代表されるようなイージーリスニングや、アメリカン・オールディーズも聴く。さらに太田裕美や吉田拓郎、オフコース。好きなジャンルなんて決められるわけがない。アーティストにしても、例えばマービン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」は大好きな曲だが、彼の他の曲についてはそれほどでもない。むしろテンプテーションズやスタイリスティックスのほうが好き、といった具合だ。もちろん、「この人の作る(歌う)歌には好きな曲が多い」という理由で、好きなアーティストというのはいる。以前言及したハリエット・ショックだとか、アート・ガーファンクル、国内だと吉田拓郎やオフコースなどがこれに当たる。 

 だいたい音楽というものは一種の嗜好品であって、かつ自分の人生のそれぞれの時代とシンクロしたりしているので、センチメンタルな話題として言及することの方が多く、少なくとも僕の中では、「音楽性を追求する」ような対象にはならない。せいぜい「ベートーベンの『田園』は、カールベームが指揮を振ったやつがいい」といったレベルだ。理由?だってカラヤンとか速いんだもん。

 あまり聞かないジャンルというのはある。演歌。でも、北酒場とか好きだなあ。襟裳岬もいい。もっとも、あれは吉田拓郎の曲だよね?自分でも歌ってるし。 

 そんなわけで、知らない人がうちのCDラックを見たらびっくりするだろうなあ。何せ「賛美歌集」から「世界の国家」さらには「おかあさんといっしょ ベストソング集」まで揃っている。ちなみに「おかあさんといっしょ」で歌われた歌の中には、大人が聞いても感動する良い歌が結構あるんですよ。「みんなの歌」に至っては何をか言わんや、という感じ。以前、何かのTV番組で、広瀬すずが「一人カラオケで中高生の頃の合唱曲を歌いまくるのが好き」と言っていたが、これもすごくわかる気がする。

 いまだに「好きなジャンルは?」と問われることは多い。以前はきちんと説明していたが、最近は面倒になってきて、ただ単に「ない。好きな曲がいっぱいあるだけ」と答えることにしている。