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 大規模ワクチン接種会場にて

 先日二度目のワクチン接種をしてきた。接種したのはモデルナ製ワクチン。カミさんも娘も同じワクチンで、接種したタイミングは僕より少し早い。二人とも副反応として発熱と頭痛、それに接種部位のかゆみ(いわゆるモデルナアーム)があったが、僕は「風邪でもひいたかな?」といった程度で済んだ。やはり男女で差があるようだ。

 一度目の接種は若い女医さんで、この時は注射そのものが結構痛かった。今回はおばさん(失礼!)の女医さんで、これが全然痛くなかった。状況的に違っていたのはただ一点だけ、投げかけられた「肩を落として」という一言だった。女医さんが言うには、注射をする時にはほとんどの人が無意識に「構え」るので、筋肉が緊張するんだそうだ。そしてそれは、肩が上がっていることでわかる。その状態で注射針を刺すと痛みが増す。実際僕も肩が上がっていたらしく、それで「肩を落として」と声をかけられたわけだ。上手い言い方だ。「肩を下げて」じゃなくて「落として」。自(おの)ずと力が抜ける。そういえば前の女医さんは何も言わなかった。なるほど、だから痛かったのか。

 さて、接種は無事終わった。が、この話には後がある。当日僕はYシャツを着ていたので、肩を出すためにはそれを脱がなければならなかった。すると、下に着ていた黒のTシャツに飼い猫の白い毛が数本付いていた。僕が「すみません、飼い猫の毛が・・・」と言い訳をすると、アシストの看護士さんが「猫飼ってるんですか?」と聞いてきた。「ええ、今は6匹。」「6匹も!」その後話題は保護した猫の話から、アンプルやアンプルカッター(※)が今でも使われていることに驚いた話へと移り、さらに医療用ナノマシンの進化(この話題は女医さんの独壇場だった)やら、モデルナワクチンとファイザーワクチンの違いやら、やれネットのデマには閉口しているだの、この会場では希望して尻に注射した人がいる(仕事で両腕を使うから、だって)だのと、三人で盛り上がり、気がつけば20分近くもおしゃべりしてしまった。その間僕は後続の接種者をそれなりに気にしていたのだが、接種ブースの二人はどこ吹く風といった体(てい)だ。看護士さんはこの20分の間に一度だけブースの外に目をやったが、何も言わずに会話に戻ったので、あるいは時間的に間隙ができていたのかも知れない。

 やがて「あら、待機時間、大分過ぎちゃいましたね。」という看護士さんの言葉を最後にこの語らいは終わった。看護士さんは「楽しいお話、ありがとうございました。」と僕に言った。女医さんも微笑んでいる。もちろん僕も楽しかった。「いえ、こちらこそ。お世話になりました。」僕はいったい何をしに来たんだっけ。そうか、ワクチン接種だった。女医さんが「係の人が混乱するといけないから、一緒に行ってあげてね。」と看護士さんに言い、僕は看護士さんに連れられて接種完了の手続きをした。看護士さんの「この人は待機終わってるから、すぐに書類を作ってあげてください。」という言葉に、何も知らない係の人は「???」といった面持ちだった。僕は看護士さんにもう一度礼を言い、その後の待ち時間無しで会場を後にした。

 二人に会うことは多分もう無いだろう。マスク越しで顔もよくわからず、名前も知らない。でもあの20分間の語らいは久しぶりに楽しかった。単なるおしゃべりではなく、まさに「語らい」という言葉がふさわしい、そんな空気がそこには満ちていた。帰りの車中で、あの二人はいつもあんなふうなのかしら、それともたまたま僕は特別なタイミングに当たったのかな、などと考えていた。コロナ騒動がなければ、出会わなかったであろう人たち。確かに、他愛もない出来事ではある。それでも一生忘れることはないだろう。人生って、本当に不可解だ。ひょんな事で大きな拾いものをしたりする。何だか、久しぶりにスタインベックの「朝めし」を読みたくなった。

※アンプル:薬剤を密閉して保管するためのガラス容器。先が長い首状になっている。 アンプルカッター:アンプルの首の部分を折り取るために、ガラスに傷をつける道具。堅い砂を薄い板状のハート型に固めてある。

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 ワクチン接種!

 先日コロナウイルスワクチンの1回目を接種してきた。通常からすると1ヶ月以上の遅れだ。なぜそんなことになったかというと、僕がファイザー社製のワクチンを嫌ったことがその主な理由だ。

 そもそも僕はワクチン接種反対論者ではないが、ワクチン接種後によくわからない理由によって500人以上の死者・急死者が出ているという事実は、そう簡単に目をつぶれるものではない。しかもコロナワクチンの接種と死亡例の因果関係は不明。かといって、新型コロナも怖いッちゃ怖い。そこで折衷案として、ファイザー社製よりは死亡者の報告が遥かに少ないモデルナ社製のワクチンを使用している接種会場を選んだ。ところがモデルナ社製のワクチンはご存じのように8月から供給が滞り、接種の予約開始が遅れた、というわけだ。

 ニュース等でも「因果関係は不明」という表現が何度も使われ、もう半年以上になる。そう。いまだに「因果関係は不明」。これはいささか無責任ではあるまいか。「打て打て、世のために打て。死ぬかもしれないけど確率は低いから。因果関係?それはまだよくわからないんだけどね」つまりそういうことでしょう?これじゃ亡くなった人やその家族はたまんないよね。この500超という数字は、当事者にとってはただの数字じゃないわけだから。

 国や自治体はワクチン接種を積極的に薦めているけど、「たまに死ぬ人がいます」とは絶対に言わない。しかも因果関係が明らかになっていないということは、逆に言えば「ワクチンが死因とは言えない」という逃げを打てるわけだ。このへんが何とも納得がいかない。因果関係をさっさと解明してくれれば、僕のような、あるいは僕より神経質な人でも安心してワクチン接種を考えることができるんだけどなあ。

 ところで、1回目の接種を終えて気付いたことがある。副反応の一つとされる「接種部位の痛み」というやつなのだが、これって妙に懐かしい感覚だ。僕ぐらいの年齢の人だと、子ども時代に風邪をひいたりすると、病院で必ず注射をされたものだ。この注射はワクチン接種と同様に筋肉注射で、打った後もしばらくは痛みが残った。あれに似ているのだ。今では風邪などで筋肉注射をされることは少なく、その代わりに内服薬が山のように処方される。インフルエンザのワクチンなどをよく打っている人をのぞけば、筋肉注射の痛みを経験したことのある人はほとんどいない。だから今回はコロナワクチン接種の副反応の一つとされているのだろう。僕からすれば「なーんだ、これか」という感じ。そういえば、20年以上前にお世話になっていたK医院、ここの大(おお)先生は初老の医師で、僕が風邪をひいたりしてK医院を訪れると必ず尻に筋肉注射をされた。そんなの古い映画でしか見たことがなかったので、初めての時はびっくりした。だってこれ、平成の話ですぜ。1~2日、堅い椅子に座れなかったのを思い出す。大先生、元気かな。今ではかなり高齢のはずだけど。白髪にもみあげの、レックス・ハリソン※みたいなダンディーな人だったっけ。閑話休題。 

 幸いにも1回目接種の副反応は接種部位の痛みだけで済みそうだ。それにしてもコロナワクチンの接種で長いこと忘れていた昔の記憶がよみがえるなんて、思いもしなかった。   ・・・待てよ。これって、一種の副反応か?

※レックス・ハリソン(1908~1990) イギリスの俳優。ミュージカル「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授、と言ったら、わかる人はわかる?