意外な名曲
以前中島みゆきの「ファイト!」がCMで使われていたことについて触れた。今日は同じく中島みゆきの「傷ついた翼」。2枚目のシングル、「時代」のB面に収録されていて、ヤマハが主催のコンテストで入賞した、デビュー前に作った曲らしい。これがねえ、明るい前向きの曲なんですよ。まあ、「時代」も前向きッちゃ前向きなんだけれどね。「あの頃はあなたの愛に気付かずに傷つけてしまった でも今気付いたの 待っていてね 私 今すぐあなたのもとへ行くわ」という感じ。これだけでは、「何虫の良いこと言ってんだ」と思うだろうけど、ちゃんと聞くと良い歌なんだ、これが。「遅すぎなければ 飛んでいてね あなたの空で」良いなあ。うん、大丈夫。今だって飛び続けているから。嘘でもそう言いたくなっちゃうじゃありませんか。これは「今でも好きでいて」じゃなくて、「あの時と同じ生き方をしていて」ととりたい。「飛んでいてね あなたの空で」とは、そういう意味だろう。
この曲は、中島みゆきの曲にしてはあまりにも普通のラブソングで、その昔、誰に聞かせても中島みゆきと気付かなかった。そりゃそうだ。「途(みち)に倒れて誰かの名を呼び続けたことがありますか(誰かが「そんなヤツはいないよ」と言っていた。わかれうた より)とか、「化粧なんてどうでもいいと思ってきたけれど 今夜死んでもいいからきれいになりたい(化粧)」なんて歌ばかり聴かされた後じゃ、誰もこんなさわやかなラブソングを彼女が歌っていたなんて思わないだろう。もっともこの10~20年は応援ソング的な歌が多いけど。「傷ついた翼」、とにかくまだ聞いていない人はぜひ1度聞いてみて欲しい。
もうひとり、因幡晃(いなばあきら 知ってますかね、「わかってください」とか?)にも明るい歌がある。この人は何というか、女性の一人称で悲しい歌ばかり歌っている人だった。「短い煙草は体に良くないわ 苦い珈琲はあまり飲まないで(泣かせて今夜は)」大きなお世話だ。こんな調子じゃ絶対破綻する。後に明るい都会的な歌も歌うようになったが、その後すぐ名前を聞かなくなっちゃった。今はどうしているのやら。その因幡晃に「思いで・・・」という曲がある。これが結構良い感じの曲で、昔の因幡晃を知っている人はイントロ聞いただけで「うっそだア!」となっちゃう。ただし、内容は昔の彼を思い出す歌だからちょっと悲しいと言えば悲しい・・・のかな?何しろ「死ぬまで君のことを離さない」と言った彼の、今でも夢に見る「思いで・・・」ということだから。でも主人公のなかではもうすっかり「思い出」になっているようで、安心して(?)聞いていられる。普通、因幡晃の曲を聴いていると「男ですみません」という感じだから。
ところで、有名な歌手の初期のナンバーやデビューアルバムには思いがけない発見があるものだ。それから、アルバムのB面の3曲目あたり(根拠無し。ただの比喩です。今はCDだからA面とかB面とかはありません)が良い曲だったり。シングルで言うと、A面の曲が好きなばっかりに、長い間A面しか聞いていなかった人が、ふと思い立ってB面を聞いてみたらこれがまたえらく良い曲で、そっちのほうが好きになっちゃった、なんてことが当時はよくあった。「時代」のB面の「傷ついた翼」は、まさにその典型であった。他にもこのような出会いを経て好きになった曲がある。例えばポールモーリアの「恋は水色(古っ!)」のB面、「愛の恐れ」はえらくかっこいい曲で気に入っていた。「あんた、全然恐れてないでしょ」的な、明るいアップテンポの曲。
デビューアルバムについては、古くは「キャッツアイ」とか「悲しみが止まらない」とかを歌った杏里(知ってますかね?)のデビューアルバムがエキゾチックで魅力的だったなあ。有名になってからのレコードと聞き比べると、まるで別人のようだ。最近の例では、アメリカの歌姫、テイラー・スウィフトのデビューアルバムが、アコースティックギター主体でほとんどカントリー&ウエスタンだったりする。でもこれがまた、素朴で良いんですよ。こういう発見は結構楽しい。誰か聞いたことある人!