秋のSF祭り 「スターウォーズ」と「未知との遭遇」
1978年は日本のSF映画ファンにとって特別な年だった。それというのも、この年に「スターウォーズ」と「未知との遭遇」が公開されたからだ。どちらも宇宙を題材にしたエポックメイキングな作品だったが、内容的にはまるで違っていて、どちらが好きかでSFファンとしてのタイプが明らかになると言われたほどだった。たとえば「未知との遭遇」は、現実に明日起こるかもしれない地球上でのUFO事件を題材にしているのに対し、「スターウォーズ」は冒頭で説明されるとおり、「遠い昔、遥か彼方の銀河系で」起こったことが描かれていて、そこに地球人は全くかかわらない。これは言い換えれば「未知との遭遇」が文字通りSF(空想科学物語)であるのに対し、「スターウォーズ」はいわゆるスペースオペラ、すなわち宇宙活劇の類であるということだ。
どちらも当時としては最高の特撮技術が使われているが、時代が時代なのでCGは一切使われていない。参考までに言うと、「未知との遭遇」の特殊効果を担当したのはダグラス・トランブル。「2001年宇宙の旅」を成功に導いた人物だ。彼は1972年に「サイレント・ランニング(※)」というSFの佳作を監督していて、この時一緒に仕事をしたジョン・ダイクストラが「スターウォーズ」の特殊効果を担当することになった。
前記したとおり、「未知との遭遇」は日常生活の延長上にある脅威を描いていて、過去に報告されたUFO事件のエピソードがふんだんに取り入れられている。特筆すべきは当時UFO研究の第一人者だったアレン・ハイネック博士がカメオ出演していることで、物語の終盤、着陸した母船をよく見ようと前に出てあごひげをひと撫でし、パイプをくわえる老科学者がまさにその人だ。同じく終盤の、音階と光の明滅で宇宙人とコミュニケーションをとるというアイディアは多少ファンタジー寄りではあるが、スピルバーグらしい演出で効果を上げていた。その単純な音階がエンドロールで壮大なメインテーマにつながっていくあたりは、さすがは大御所ジョン・ウィリアムズ。
「スターウォーズ」は描写や音楽(こちらもジョン・ウィリアムズ!)が派手で見ていて楽しいが、僕にとっては「SFの概念と特殊効果で味付けされた冒険活劇」でしかない。剣や銃で戦い、飯を食い、車に乗るように宇宙船を乗り回す。ここでは脅威となるはずの物事が単なる日常だ。エピソード(話数)が多いので飽きも来る。もうお分かりですね。そうです、僕は「未知との遭遇」派です。「スターウォーズ」はお約束のアラ探しをしようにもアラだらけでその気にもなれない。良くも悪くも荒唐無稽すぎる。
こうして考えてみると、SFファンによるアラ探しという行為はリアリズムを追求するタイプのSF映画に対する一種の愛情表現なのかもしれない。製作者:「どうです、完璧でしょ?」ファン:「いえいえ、今回も必ず何かしら見つけちゃいますよ?」といった具合だ。だから単純なスペース・オペラでは満足できないんだな、多分。ただ、かの宇宙大元帥(故 野田昌弘氏、SF作家)がいみじくも言っていたように、「SFは絵だ!」というのも事実で、そういった意味では「スターウォーズ」のSF映画界への貢献は大きく、大いに評価できると思う。特に冒頭のスター・デストロイヤーの描写は秀逸で、後々どれだけパクらたかわからない。
最後に一言、最近のSF映画を見ていて「つまらん」と思うのは僕だけだろうか。内容がやたらと小難しいうえに、ストーリーも見ていると鬱になりそうなものが多く、やりつくしてしまった感がある。だったらいっそのこと、「宇宙戦争」を原作どおりヴィクトリア朝のイギリスを舞台に、再々映画化するぐらいのことをしてくれれば面白いのだが。
※ ちょっと毛色の違った宇宙SFの傑作だと思う。主題歌を歌っているのがジョーン・バエズだと言ったら、興味がわくかも。お勧めします。僕はラストで泣きました。