夏と言えば怪談・・・なんだけど
一番怖いのは人間だ、という言い方がある。これは半分あたりだろう。ネット環境が充実して以来、平気で他人を中傷し、よせば良いのに、伏せておくべき個人情報を第三者が次々と暴露するような事例が増えているが、この傾向は巷の怪談話についても当てはまる。
怪異の起こる場所や建物は日本中至る所にあって、なかでも建物に纏わる話は、廃墟ばかりとは限らない。例えばホラー作家の加門七海氏が封印しようとした「三角屋敷」の話とか、「新耳袋」の著者(の一人)で怪異蒐集家の中山市郎氏が、場所を伏せて紹介した京都の「幽霊マンション」のように、現在人が住んでいるものもある。こうした、軽率なマニアなどには知らせない方がいいと思われるような事案も、ネット上で場所や名称まで明らかになっていく。なかにはご丁寧に写真や地図まで掲載されている記事もある。
「三角屋敷」も「幽霊マンション」も集合住宅であるから、心ない野次馬が押しかけるような事態になれば、そこに住んでいる人たちは心穏やかではないだろう。加えて、もしそこで起こっていることが「本物」だったら、例えば「幽霊マンション」なんて、中山市郎氏曰く、今までに何人も投身自殺者が出ていて、それがすべて住人ではなく、たまたま近くを通りかかった人たちだというのだから穏やかではない。吸い込まれるように上階へ行き、吹き抜けから飛び降りるという。誰がその状況を報告したのか、という疑問は残るが(笑)、下手に拡散させて実害が出たらどうするのだろう。なにしろ「幽霊マンション」は最近外壁を塗り替え、建物の名称まで刷新してイメージチェンジを図っているにもかかわらず、その顛末自体を報告している記事もあって、いまだに易々と特定できる状態なのだ。
こうした記事をUPする人たちは、そこに住む住人の心情をどう捉えているのだろうか。自宅周辺に見知らぬ人物が大勢押しかけ、住まいを心霊物件呼ばわりされ、ともすれば敷地への不法侵入をも辞さないとしたら、どんなに不快な思いをするか、そのことに思い至らなかったのだろうか。こういった、自分の欲求を何よりも最優先させる精神構造は、一部の非常識な撮り鉄や、考えなしに飲食店テロをしてしまう人たちとあまり変わらない気がする。明確な恨みを持って現れる霊などよりよほど質(たち)が悪い。
こういった人たちのなかには、ゆくゆく霊になって現れるようなことがあったら、どこぞの駅前あたりで藪から棒に縁もゆかりもない人を取り殺して、「取り殺してみたかった 相手は誰でもよかった」なんて言うヤツがいるかもしれない・・・言うわけねーか。そもそも幽霊は逮捕できねーし。