たまに聞くラジオも良いもんだ 思いがけない発見がある
先日、カミさんと二人で買い物に出た。最近、車でよくFM放送を聞く。その日も「Jウェーブ」を聞きながら車を走らせていたのだが、曲の合間に突然、男女の語らいが始まった。「先生、笑ってるのを見られるのって、恥ずかしくないですか?」「面白いことを言いますね・・・思春期ですか」「先生、私もう28です」ここまで読んでわかった人、いるでしょう。そうです。これはCMだったんです。一瞬だけ、商品を匂わせる唐突かつ不自然なセリフ(※1)があるので、それとわかります。
その後も会話は続く。「先生、マスク後の世界はどうなるのでしょう」「28歳ですか・・・いいなあ・・・マスク、取ってみませんか?」「・・・良い匂い・・・先生、私本当は29なんです、ふふふふ・・・」「知ってます はははは・・・」これが何と、キンチョーの蚊取り線香のCM。何を今更、という人もいるだろうが、ラジオを聞く習慣がなかったものだから、今までその存在すら知らなかった。
ネットで調べてみたら、このCMは「マスクを外して」というシリーズ。他にもいろいろなパターンがあって、しかも何年も前から続いているらしい。それをまとめた動画(勿論画面は静止画)もあって、キンチョーのCMはその筋では有名なのだそうだ。以前「よくできたいにしえのTVCMは一種の名画(映画)であった」などと書いたことのある僕だが、ラジオCMの世界は盲点だった。こんなにも楽しい世界があったとは。
こうしてみると、ラジオCMにはラジオCMならではの味がある。たとえば「思春期ですね」「私もう28です」というやりとりの面白さは、登場人物の容姿が視覚的に確認できないから成立するものだ。これがTVだったら、冒頭から視覚的な多くの情報を認識できてしまう。仮に「思春期の女の子に見えなくもない28歳の女性」を具現化したとしても、セリフの前に視覚情報が提供されているわけだから、セリフのインパクトは弱くなる。女子生徒と教師の会話かと思いきや、実は(多分)相談者とカウンセラー(※2)でした、というどんでん返しについても、ビジュアルはものすごい情報量を持っているから、意図的かつ部分的にそれを操作しようとすれば、要らぬ演出ばかりが増えてしまうだろう。やはりこの筋書きは、視覚情報が無いために、聞く側が勝手に想像を膨らませてくれるラジオの世界でなければ実現できないものだと思う。そんなわけで今回、ラジオCMの奥深さをあらためて認識したのであった。
※1 このまったりとした会話のなかで唐突に「蚊取り線香をつけましょう、蚊がいる」という「先生」のセリフがある。女性の「良い匂い」というセリフは、蚊取り線香の香りのことだ。
※2 僕はカウンセリングの講習を受けたことがあるのだが、この「先生」の受け答えは典型的なカウンセラーのそれに近い。カウンセラーは通常、自分の意見や相手に対する指示は口にせず、聞き手に徹する。この会話にはもう一つ、カウンセリングの手法が使われているが、説明が面倒なので割愛する。とにかく、このCMが、おそらくはカウンセリングのパロディであろう事が、わかる人にはわかるのだ。そう考えれば、この会話のもつ不思議な違和感もそれなりに納得がいく。
付記 キンチョーのCMにはきわどすぎて大炎上したものもある。下ネタぎりぎりのTVCMなのだが、このCMの場合、逆に視覚情報があるから安心できる。何について話しているのかが画面からの情報で理解できるからだ。仮に音声だけを聞くと、もう大変。ネットに動画があるので、商品名だけお伝えしておく。「キンチョー太巻」。後は自分で調べてください。