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 「マザアグウス」子どもの唄

 前回最後に少しだけ触れた童謡集「マザーグース」。家にちょっと面白いものがあるので紹介したい。

 そもそも僕がなぜこんな古い書物を知っているのか。確かに有名な書物だし、初出は1780年ながら、現在でもいろいろな出版社から発行されてはいる。だが僕が初めてこの本を知ったのは幼少時、たまたまうちにあった古書を目にしたからだった。今その現物が手元にあるが、タイトルは「マザアグウス 子どもの唄」となっている。表記が何とも古くさい。ページを開いてみると、文章は全て旧仮名遣いだ。それもそのはず、奥付によれば発行は大正(!)14年12月15日。こういう本が何気なく存在するから、本好きの家系は恐ろしい。

 大正14年といえば今は亡き母が生まれた年だ。おそらく本好きだった母方の祖父が、娘に買い与えることを口実に半趣味で買ったのだろう。というのも、ハードカバーの、今でもきちんと開いて読めるほどしっかりした作りで、挿絵も海外の素晴らしいものが、そのページだけ紙質まで変えておごられている。定価が「貳圓五拾銭」というから、ある試算を基に計算すると、今なら7,000円ぐらい。子どもに買い与えるような価格ではない。むしろコレクター向けのものだったに違いない。だいたい子どもが512ページ(厚さ45㎜)もあるハードカバーの本を読む姿なんて誰が想像できるだろうか。

 背表紙のごく一部が破れてなくなっているのが残念だが、98年前の書物である事を考えれば、良く保っている方だろう。特に売却する気もないしね。ところで中身は純粋に西洋の童謡を和訳してあるだけで、前記したものの他にも、所どころに素晴らしい挿絵がちりばめられている。例の「ハンプティ・ダンプティ」はこんな訳だ。

 ハンプティ・ダンプティが塀の上、ハンプティ・ダンプティがすってんころりん。王様の兵隊とお馬を皆(みんな)くり出しても、ハンプティ・ダンプティをもとの通りにやできなかった。

せっかくだから、もう少し紹介しよう。まずは「ゴサムの三利口」。

 ゴサムの利口者三人が、丼鉢にのって、海へ行った。丼鉢が丈夫であったら、私のお話も長いんだが。

意味はおわかりですね。お次は「ジャックや、急用だ。」

 ジャックや、急用だ。ジャックや、かけろ。そこでジャックは蝋燭立てをとび越えた。

どうです、何とも言えない良い感じでしょう?長いからここには書かないけど、あの有名な「誰がクックロビンを殺したか」もこの童謡集で紹介されているんだよ。

 ちなみに「ゴサムの三利口」は、王様の道路建設用地に村の土地を取られるのを嫌ったゴサムの村の利口者3人が、視察に来た使いの者のまえでわざと愚かしい行動を見せつけて、王様をもっとましな土地を選ぶ気にさせた、という逸話がもとになっている。ところでゴサム(ゴッサムとも)とは本当にあったイギリスの地名で、後にアメリカの作家アービングが、ある記事でニューヨークを前述の逸話に照らしてゴッサム(衆愚の街)と記述したことがあった。このことから映画「バットマン」シリーズでは、本来ニューヨークであったバットマンの住む街を架空の都市ゴッサム・シティと設定したらしい。

 ついでにちょっといいですか?ついこのあいだ、WOWOWで「アラモ(1960)」という西部劇を見た。なにぶん古い映画なので、情報が欲しくて月刊「映画の友(廃刊)」臨時増刊「西部劇読本」を引っ張り出した。表紙には「1960年(昭和35年)10月号」とある。おまけに月刊「スクリーン」臨時増刊「西部劇特別号(昭和36年8月15日発行)」なんていうのもある(これも祖父のもの)。さらにちょっと悪ノリすると、「婦人生活(廃刊)6月号付録 今晩のおかず」では料理研究家の故土井勝氏が「茹でたスパゲティは冷水にさらして締めます」なんて平気で書いている。土井勝氏が悪いんじゃないよ、当時はこれが当たり前だったらしいから。何せ発行日は昭和36年6月1日(これは母のもの)。それから憶えているかなあ、以前に紹介した「駅弁パノラマ旅行」は昭和39年発行だった。僕の日常には、こういった書物が当たり前のように存在しているのですよ。ずっと昔から、ね。

春秋社刊 訳 松原至大 装丁 宍戸左行。この表紙絵は日本で描かれたものだろう。挿絵とは雰囲気がかけ離れている。
見よ、マザーグース婆さんの勇姿(口絵)! カラーはこの1枚だけ。
「ゴサムの三利口」のページ。実在する「ゴサム」の説明が・・・。
「ハンプティ・ダンプティ」。同様のモノクロ挿絵が全部で5枚ある。
このクオリティ。多分原画はどれも彩色。カラーで見たかったなあ。文字ページとの紙質の違いがわかるだろうか。(「マフェットお嬢さん」)
文字ページにも挿絵がたくさん入っている。これは「駒鳥のお葬式(誰がクックロビンを殺したか)」のページ。

作成者: 835776t4

こんにちは。好事家の中年(?)男性です。「文化人」と言われるようになりたいなあ。

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