夏といえば怪談 2023 「あるライフプラン・コンサルタントの場合 2」
(前回より続く) 保険屋のKさんがまだ若かった頃(と言っても、Kさんはまだ若いんだけどね)、とあるゴルフクラブのレストランでバイトをしたことがあったそうだ。先に言っておくと、僕の住む街(というか市)には、T城址という、TVで紹介されたこともあるそこそこ有名な心霊スポットがある。小高い丘の上にあり、今は公園として整備されていて、ちょっとした観光名所でもある。たいした標高ではないものの、アクセスするにはヘアピンカーブのある坂道を登らなければならない。以前この道でヤンチャなライダーの事故が多発し、現在はバイクの乗り入れは禁止されている。事故を起こしたライダーのなかには、「深夜に白い服を着た女性を見て、動揺してハンドル操作を誤った」と報告する人もいるという。「城址」という割には、落ち武者の霊といった話はあまり聞かないが、今でもこの「白い服を着た女性」や「首のないライダー」の目撃談が後を絶たない。Kさんのバイトしていたレストランは、このT城址に隣接するゴルフクラブの建物の中にあった。
あるときKさんが勤務中に、バイト仲間が体調を崩したので控え室で休ませた。しばらくすると戻ってきたが、あいかわらず顔色が悪い。Kさんたちが大丈夫か、と聞くと、彼女はこう言ったそうだ。「このゴルフクラブ、従業員用の託児所でもあるんですか?上の階で子供がバタバタ走りまわっていて、うるさくて全然休めませんでした。」Kさんたちは思わず顔を見合わせた。というのも、そのレストランには上の階などなかったからだ。勿論屋上も普段は施錠されているので、子供が走り回れるはずもなかった。体調を崩したバイトの女性はまだ入ったばかりで、そういったことをよくわかっていなかったらしい。
別のある日、Kさんが同じレストランで勤務していたときのこと。コースを回り終えたとおぼしきゴルフ客が3人、談笑しながら建物の玄関を入ってくるのが見えた。レストランに入るには、ロビーを横切って、もう一つガラスの自動ドアを通る。バイトたちのあいだでは、客が玄関を入ってくるのがガラス越しに見えると、その人数を確認して水のグラスを用意するのが習慣になっていた。
三つのゲラスに水を注ぎ終えて顔を上げると、さっき見た3人の人影がどこにもない。不思議に思って店内を見回してみても、3人が入ってきた形跡はない。そういえば自動ドアが開く音を聞いていない。ロビーに出てみても、玄関の外まで出てみても、3人の姿はどこにもなかった。周辺には隠れられるような場所はないし、そもそも客が隠れる理由も思いあたらない。トイレにでも行ったのかとしばらく待ってみたが、結局その3人の客が再び現れることはなかった。Kさんは言う。「確かに見たんですよ。バイト仲間も見たって言ってましたし。でも考えてみると、私は基本的に「見えない人」なんで、何かしら誤解してる可能性はあるんですけどね。」ところでこの話には姉妹編がある。 (つづく)