僕らの夏を返せ!
以前海外のメーカーが、プロペラのない扇風機(プロペラがないのだからこの表現は本当は間違いだ)を開発した。初めのうちは、 「へー、どんな原理なんだろう」 と、興味津津だったが、やがてある重大な欠陥があることに気がついた。そして、この欠陥は夏の少年少女たちの夢を壊しかねないものだった。僕らの夏を返せ!
説明しよう。 僕も、そして貴方も多分、子どもの頃に一度はやったことがあるはずだ。プロペラ式扇風機のスイッチを入れ、その前に座る。そして、おもむろに、 「あーーーーーーーーー。」 と声を出す。もうおわかりだろう。その声はプロペラが空気を叩く衝撃波に影響され、 「あ あ あ あ あ あ。」 と細切れになって聞こえる。誰に教わるでもなく、経験的に覚えていく遊びだ。だがプロペラがないと、この現象は起きない。もしこの海外メーカーの新型扇風機が、エアコンと相まって擡頭(たいとう)することになった暁には、あの遊びは子どもたちの夏から永遠に駆逐されてしまうことだろう。
誰もめったに口にしないが、誰もが知っている、あの夏の風物詩がこうしてまた一つ消えてしまうのだろうか。断じてそんなことがあってはならない。今こそ我々は立ち上がる時なのだ。声を大にして、もう一度言おう。 「僕らの夏を返せ!」