肉を煮込む
料理が好きである。作るのも、勿論食べるのも。僕は美術系大学の出身だが、今ではほとんど絵を描かず、料理ばかりしている。僕のなかでは、ある時から「究極の芸術は料理である」ということになっている。五感の全てを使って楽しむことのできる、究極の創造物(食えば無くなるから、「インスタレーション」のカテゴリーになるのかな)。そんなわけで、僕の場合、手に入れたレシピ通りに料理することはほとんど無い。アレンジを加えたり、足りない素材を別のものに置き換えたりして作ることがほとんどだ。
長いこと料理を趣味にしていると、色々コツがわかってくる。例えばフレンチだと、煮込み料理は始まりはみんなほぼ同じ。香味野菜(僕は通常ニンニク,タマネギ、ニンジン、セロリを使っている)をバターで炒め、軽く塩コショウを振る。一度取り出して、同じフライパンで塩こしょうした肉(料理に合わせて選ぶ)に焼き色をつける。香味野菜を戻し、小麦粉を振って焼き色がつくまでさらに軽く炒める。この小麦粉が煮込む段階でとろみを演出してくれるので、ルーを別に作る必要が無い。これは何も特別な方法ではなく、プロもよく使う手だ。さて次。ここからの作業の違いと使う肉の種類によって、色々な料理が作れる。
1 肉は牛のバラ肉を選んで、コンソメスープと赤ワイン、トマトピューレ(もしくはト マトペースト)、さらにローリエなどを加えて2~3時間煮込めば「ビーフシチュー」ができあがる。
2 肉は鶏のモモ肉を選び、コンソメスープと赤ワインとローリエだけで1時間ほど煮込 むと「コック・オ・ヴァン(鶏の赤ワイン煮込み)」になる。ちなみに、使う赤ワインを「シャンベルタン(高級なワインで、当然高価。個人的には、料理なんかには使えません)」という地域のワインに限定すると、「コック・オ・シャンベルタン」という特別な料理になる。
3 変化球としてはイタリア料理。同じく鶏モモを使い、小麦粉を振らずにコンソメスープとトマトの水煮缶、ローリエを加えて1時間煮込むと「鶏肉のトマト煮」になる。お好みでバジルを。
4 次はちょっと信じられない料理を一つご紹介。鶏モモ肉を使い、煮込むときにコンソメスープとシャンパン(注)を使う。勿論ローリエも。1時間ほど煮込み、仕上げに生クリームを加えて、馴染むまでさらに軽く煮込む。
1,2,4に関しては浮き油を取り除くことが大事。特に鶏モモ肉は油がたくさん出る。基本的にはできあがったら肉を取り出し、煮汁をシノワ(ザルで良いです)で漉して肉とともに鍋に戻す。温め直して盛りつける。くたくたになった野菜も食べられるが、ほとんどカスです。どうしても繊維をとりたいというのなら漉さずにどうぞ。止めはしません。なお、アクについては、出るそばからすくい取るのではなく、ある程度煮込んで残ったものだけをとること。そうしないと、うま味まで捨ててしまうことになる。 この4種類の料理は味も見かけも全く違うけれど、途中まではほとんど同じ行程。使う肉が違うだけ。赤ワインに関してはチリ産のカベルネ・ソーヴィニオン(使っているブドウの品種名。ラベルで確認できる)で十分。
中華料理のトンボウロウ(豚バラ煮込み)は煮込みと言いながら実は蒸し煮であって、しかもあの独特の香りに行き着くには最低でも2時間半を要する(理想は3時間。蒸し煮の時間だけで、です)。知り合いが待ちきれなくて2時間で上げてしまったところ、味も香りも食感もまるで違うものになってしまった、と言っていた。ここはアレンジ不可、ということですかね。料理には「ここは絶対変えちゃダメ!」っていうポイントもあるのでここは要注意だな。
今では「ローストオニオン」なんて便利な物を売っていて、時短にとっても役立っている。本格カレーとか、麻婆豆腐とかも、やってみると結構簡単にできる。面倒なのは材料を揃える手間や下ごしらえであって、今はカレー用のホールスパイスは「アマゾン」で全て手に入るのでありがたい。下ごしらえなどは、僕はリビング(うちはリビング・ダイニングキッチン)で映画を見ながらやってしまう。麻婆豆腐なんて、プロが調理している動画を見てもわかるように、実際に鍋を火にかけている時間は20分ぐらいだ。
大事なのは、綺麗なまな板、コショウ挽き、切れる包丁かなあ。スクレーパーもあると便利。それから味見ね。だいたい、レシピを作った人と味の好みが合う保証なんて無いんだから、自分好みの味を見つけ、必ず自分の舌で確認すること。美味しい料理を作るためには、味見は絶対必要です。
(注)「シャンパン」とはフランスの「シャンパーニュ」地方の発泡ワインを指す名称なので、それ以外の地域で作られたものは「シャンパン」とは言わない。広い意味での「スパークリングワイン」というカテゴリーがあり、そのなかでシャンパーニュ地方で作られているものをシャンパンという、と考えればすればわかりやすいかも。さらに、炭酸は醸造の過程でボトル内で発生したものなので、後から炭酸を注入したものは全く違う種類の酒である。日本酒の一番搾りにも、時々こうした発泡性が見られることがある。