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 怪獣?それとも怪物?

 日本が世界に誇る、怪獣王ゴジラ。初めて出現したのは1954年。「世紀の大怪獣」として東京を蹂躙した。以後何度も日本に現れては、首都東京を中心に破壊を繰り返す。最近では趣旨替えしたのか、世界を股にかけ、主にアメリカを襲うことを好む(笑)。

 さて、ゴジラはよく「怪獣」と表現される。が、僕の考えでは「怪獣」はあくまでも生物。そうなると、ゴジラはむしろ「怪物」であろう。というのも、ゴジラは生物の粋から外れた要素が多いからだ。まず第一にそのエネルギー源が釈然としない。よく聞くのは、体内に原子炉のような器官を持ち、核反応によるエネルギーで活動しているという説。この時点ですでに並みの生物の域を超えている。実際、ゴジラが何かを食べていたのは多分1度だけ。1998年のアメリカ版で、マグロだか鰹だかを食べるシーンがある(※1)。だが、この時の怪獣はゴジラと呼称されはしたものの、専門家(いわゆるマニア、ですね)によれば別の生物であった可能性が高い(後述)。

 これに先駆ける1984年には茨城県東海村の原発を襲い、これを破壊。通常であれば周囲は致命的な放射能汚染に見舞われるはずだが、ゴジラが炉心を抱え上げるやいなや、一旦上昇した線量が急激に低下するという現象が観測された。近年ではある特務機関が弱ったゴジラの至近距離で核爆発を起こし、カンフル剤と同等の効果を得ている。こうしたことから、ゴジラが通常の生物とはまったく異なるエネルギー代謝のシステムを持っていることは明らかだ。

 次に、ゴジラの持つ最も強力な武器であるところの、口腔から発する放射能熱線だが、これも通常の生物では考えられない能力だ。普通の生物だったら口内炎どころでは済まないだろう。特に2016年に日本に上陸した際には、口腔のみならず、背中(背びれ?)や尻尾の先端からも収束ビームとして放射する能力が備わっていた。これは体内に蓄積された核エネルギーが放出されて起こる現象と考えられ、極限まで放出した場合、ゴジラそのものは活動停止の状態となる。

 ところで初めて日本に現れた時のゴジラは体高50メートル、体重は推定2万トン。識者によれば、この設定では陸上での活動は不可能だ。立ち上がることもできず、自重で圧死するらしい。しかし、近年アメリカを襲った時のゴジラは体高100メートル超、体重は9万トンとグレードアップ。2016年に日本を襲った際はさらにそれを上回っている。形態学の常識を無視して陸上を二足歩行し、肉離れになることもなく他の怪獣と争ったりしているところを見ても、普通の生物として考えるには無理がある。参考までに言うと、1998年にニューヨークを襲った「ゴジラ」と呼称される生物は体重500トンと、より現実的な数値。魚を食べる以外にも放射能熱線の機能を持たなかったり、通常兵器で駆除されたりと、より生物的な設定で、マニアからは「あんなのゴジラじゃなーい!」と不評を買った。

 「怪獣」と「怪物」という言葉の意味を比べると、巨大で、正体不明である、という共通項がある一方、怪物には「超常的な存在」という一文が加わる。どんな生物でも、巨大化すれば怪獣にはなり得る。だがそれだけで放射能熱線を吐いたりはしない。通常あり得ない能力が加わって初めて、「怪物」となる。そういった意味で、やはりゴジラは「怪物」なのだ。だからこそ、超常的な存在であるゴジラを倒すには、超常的な兵器「オキシジェン・デストロイヤー」が必要だったわけだ。

 1954年に初めて制作された「ゴジラ」は、度重なる水爆実験を受け、核兵器の恐怖を具現化したものだった。ゴジラ自身も被害者で、劇中、「水爆実験によって安住の地を追われたために出現した」と説明されていた。初期の設定資料では、ゴジラの頭部はより人間的で、正面から見るとキノコ雲の形をしており(※2)、「体表はケロイド状の襞で覆われている」との記載がある。当時、水爆の被害者でもあるゴジラが新たな超兵器によって葬られる筋書きに、「なぜゴジラを死なせたのか」「ゴジラがかわいそうだ」といった意見が多数寄せられたという。

 時代が進み、2016年の「シン・ゴジラ」では、核兵器への恐怖が原発事故への恐怖に置き換えられ、核をエネルギー源とするゴジラの活動によって引き起こされる、都心の放射能汚染の描写がリアルに描き加えられた。これほどまでに自らの活動領域を汚染して見せたのは、「シン・ゴジラ」が初めてだろう。

 このように、時代が変わってもゴジラは常に核の恐怖を引きずっている。なぜこのような怪物が生まれてきたのか。人類による核実験や放射能汚染の影響(突然変異?)が一番の原因である事は間違いなさそうだが、諸説ありすぎてそれ以上は不明だ(※3)。時代や作品によって少しずつ解釈が違っていて、その構造や生態についてもいまだに推測や仮説の域を出ない。多分今後も解明されることはないだろう。謎は深まる一方だ。それも怪物たる所以と言うべきか。

※1 1954年の作品では、ゴジラ出現の前触れとして周囲の海域に魚がいなくなるという現象が報告されているが、これはゴジラを避けて回避行動をとったとするのが妥当であろう。

※2 後にシン・ゴジラのデザインに取り入れられた。

※3 太平洋戦争における死者の怨念の集合体、という説まである。だから南方より出現し、東京を目指すのだという。また、最近のアメリカ版では、その「モンスター・ヴァース」の世界観において、登場するほとんどのカイジュウ(「カイジュウ」はすでに英語化している)は太古から存在する地球の固有種ということになっている。ただし、キング・ギドラに関しては、劇中、宇宙からの外来種であることを示唆するセリフがある。