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 アニメの薦め

 今年の夏はアニメ三昧だったような気がする。きっかけは前に1度書いたことがある「からかい上手の高木さん」第3期が今年の上半期に放送されたことだった。最終回に心が動かされて、第1期からあらためて全てを視聴することに。その後、夏に公開の劇場版を2回見た。なぜそこまでのめり込んだのかは今だによくわからない。そのあと「古見さんはコミュ症です。※」2クール分を鑑賞。これも良かった。いずれもいわゆる「ラブコメ(ディ)」なのだが、僕にとっては他のアニメとはちょっと印象が違う。

 この夏も「彼女、お借りします」だの「カッコウの許嫁」だのと、ラブコメアニメはあまた放送されはしたものの、これらはどうも心の琴線に触れてこない。というのも、これらは同じ「ラブコメ」というジャンルでありながら、主人公の男子が優柔不断で、それ故関わる女子が何人も現れる。要するに男子1人を複数の女子が取り合う、俗に「ハーレムもの」という構図だ。どうしたら良いのかわからなくて主人公がパニックに陥る様が面白いのだろうが、この状況が僕にはどうも楽しくない。「お前がもっとしっかりしていれば、こうはならないだろう?」的ないらだちすら覚える(多分こういったアニメを楽しむにはいささか歳をとり過ぎているのだろう)。その点、前に挙げた2作品は主人公であるカップルの関係に(多少の波乱はあっても)ブレがない。そしてここがポイントなのだが、良き友人たちに助けられながら、人間として着実に成長していく。特に「古見さんは・・・」の古見さんはタイトルどおり「コミュニケーション障害」を持っていて、超絶美少女でありながら、それ故「お高くとまっている」などと誤解されることも多く、劇中、中学校では孤立して、悲しい思いをしてきた過去が語られるのだが、高校入学時にある事がきっかけで、お人好しで優しさの塊のような只野君と友人関係(後に恋愛関係に発展)になり、少しずつ心を開きながら前に進もうと努力するようになる。特に1クール第1話の、誰もいない教室で、背面黒板をいっぱいに埋めて二人が筆談するシーンは、BGMも手伝ってとても感動的。1クールの1話でこれやっちゃったら、後どうするんだよ、と心配になるほど。

 同じく成長譚でありながら、ちょっと毛色が変わっているのが「・・・高木さん」で、この作品の良さは、中学生である主人公カップル(友達以上恋人未満的な?)のやることがほぼ昭和の小学生みたい、という点にある。純朴で、何となく懐かしい。駄菓子屋でポットからお湯を注いでもらうカップ麺を食べながら、「二人でご飯食べるの、初めてだね」って、いつの時代の話だよ(中学生なんだから、せめてフードコートとか行けよ)。それが理由かどうかはわからないが、劇場版を上映中の映画館には中年以上の男性が半数近くいた。なかには70代とおぼしき白髪の男性まで・・・。いったいどんなきっかけがあって映画館に来たのだろう?

 普通アニメといえば子どもからせいぜい若者が鑑賞するものだったが、「オタク」やスタジオジブリの擡頭を機に、いつの間にか大人も鑑賞できる時代になってきた。僕もこの歳でアニメにのめり込むのは多少後ろめたいのだが、よくできたアニメは僕のような視聴者に大事なことを思い出させてくれたり、懐かしい過去へと誘ってくれたりすることがある。そもそも長いこと人間をやっていると、疲れたり汚れたりで大事なことを見失っていたりするものなのだ。そんな時、こうしたアニメに出会うと、何となく気持ちが若返るような気がするのは、きっと僕だけじゃないだろう。勿論思うことは人それぞれだから、受けつけない人もいるだろうが、一度試してみるのも良いと思う。

※「コミュ症」あるいは「コミュ障」という言葉には、専門用語からスラングまで、いろいろな解釈の仕方があるようなので、使用には注意が必要かも。

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 高木さん

 この春に第3期が放送され、現在劇場版が公開中の「からかい上手の高木さん」というアニメがある。これが好き。(何笑ってんだよ。)原作は少年向けのコミックで、主人公は中学生の西方(にしかた)君と高木さん。言ってしまえばいわゆる「ラブコメ」なんだけど、実はこれ、大人が見ると何とも郷愁を誘うノスタルジック・ストーリーなのですよ。

 中学生というのは子どもが大人への第一歩を踏み出す時期で、身体がどんどん大人になっていくのに心がそれについていけなくて、とてもアンバランスな状態なのだよね。そんでもって、そんなアンバランスな状態であるが故に、いろいろなことが起こる。それは日常に埋もれてしまうような些細なことであるにもかかわらず、当事者にとっては人生の一大事だったりする。そんな日常を日々を追って描き綴ったのが「からかい上手の高木さん」の原作コミック。アニメでは少し毛色が違って、第1期から3期に進むにつれて、アニメ用のオリジナルストーリーが増えていき、もどかしいほどゆっくりではあるが、主人公二人の関係が進展していく様が描かれる。はじめはちょっとおませな高木さん(実は西方のことが好き)に意味深な言葉かけでからかわれ、顔を真っ赤にしている西方、という鉄板の関係性が、第3期に至って、お互いの親密な関係をミニマムに描写する場面が多くなり、最終話では西方が高木さんの本当の気持ちに気づき、それに答えようとする。このラストシーンはちょっと感動的。そして二人の恋の行方は、怒濤の劇場版へ!・・・と書くと普通のラブコメなんだけど、このアニメは他と一線を画するポイントがいくつかある。まず主人公が中学生であること。ラブコメではあまりない設定だ。普通、この手のアニメは高校生以上が主人公で、特に女子はお洒落な服を着て、体型もセクシーに描かれていたりする。それも売りの一つだからだ。だが高木さんは文字通り「女の子」。確かにキャラデザインはかわいいのだが、胸なんかツルペタで、運動はできるが華奢な体型。服装も、そのへんでよく見かける中学生とあまり変わらない。一方西方も、なんでこいつが・・・と思うほど普通の男の子で、恋愛沙汰にはまったく耐性がなく、夏休みには野球帽を被って友人と釣りに行ったりしている。そんな二人の行動は無邪気としか言いようがなく、邪念が入り込む余地がない・・・ことも無いが、中坊がどきどきする程度。二人の感情を追っても「好き」からせいぜい「恋」どまり。だから印象としては「ラブコメ」というより「思春期の成長譚」と言った方がしっくりくる。でも、逆にそれが僕の世代にはノスタルジーを抱かせるんだよな。何しろ「思春期あるある」満載だからね。二人乗りしたがるし。えへへ。そもそも高木さんのからかい自体が照れ隠しだったりもするわけで。ほらほら、何となく心当たりがあるでしょうが。

 こうしたノスタルジックな魅力は、逆に歳を重ねた大人にしかわからないものだ。やたらと伏線が多く、それが何話も後で回収されたりするのも特徴的で、丁寧に作っているなあ、と思わずにはいられない。特に第3期の「クリスマス」回(9話)など、1本の短編映画を見ているようで、制作陣の並々ならぬ思い入れを感じる。別れ際の手の振り方とか、「あー!ある!」なんて、思わず声に出しそうになってしまった。

 このアニメでもう一つ、忘れてならないのが脇役たちだ。みんな主人公二人の関係が「あやしい」と思っていて、時に探りを入れてみたり、時に背中を押してやったり。状況がわかっていないのはただ一人、西方だけ、という構図だ。主人公たち以外にも2組のカップルがあって、おつきあいが成立しているものもあれば、事実上成立していながらまだ告白がすんでいなかったり・・・。「お前ら、いい加減にしろよ」なんて思いながら、つい見守りたくなってしまう。そう。感情移入するというより見守っていたくなる。その意味では劇場版の「見守りたい初恋が、ここにある」というキャッチコピーは秀逸。そしてごく平均的でありながら個性豊かな3人組の女の子たち。彼女たちはもう一組の主人公と言ってもいいぐらいの働きをしていて、ファンも多い(原作者が同じ「明日は土曜日」というマンガの主人公でもある)。さらに特筆すべきなのが西方の友人である木村。いがぐり頭の大食漢でありながら、人の気持ちがわかる気の利くヤツで、ここぞという場面で二人の恋路をサポートする。第2期最終話など、助演男優賞間違いなし。

 こうした仲間たちとの群像劇は、古くさいとも思えるほど純朴で、同じような中学時代を過ごしてきた人にはぐっとくるだろう。そんなわけで、このアニメには、大人の心を掴む不思議な力がある。もしかすると制作スタッフも、後半は現代の中学生というより、自分たちの思い出や当時抱いていた憧れを描いていたんじゃないのかなあ。

 ところで、劇場版のエンディングでは公式スピンオフ作品「からかい上手の(元)高木さん」という、結婚後子どもが一人いる二人の関係を描いた場面が流れるそうだ。そのこともあって、劇場版では二人の関係性にもそれに繋がるそれなりの結論が出るらしいが、これについては少し複雑な気持ちだ。結婚して子どもがいるということで、劇場版で謳われている「中学最後の夏」が、ただの「過去」になってしまうような気がするからだ。二人が将来ゴールインするのは、それはそれでめでたい(?)し、アニメとしては良い終わり方なんだけど、僕としては「いつまでも終わらない永遠の夏の日」としておいて欲しかった気がする。僕の世代は人生というものがその後どんなふうに進んでいくのかをもう知ってしまっているわけだし、綺麗なものは綺麗なままにしておきたいというか・・・。四の五の言っても始まらないから、劇場版、見てくっかな。

 そんなことを考えているうちに、もう7月も下旬に入る。まだミンミンゼミの声は聞いていないけど、今年の夏は何だか例年と違う、いい夏になる・・・のか?これ。