肉のあれこれ
世間ではいまだに牛肉が肉の頂点に君臨しているようだ。僕もA5ランクの肉を食べたことがあるが、確かに美味しい。それは認める。だが脂身の香りは豚肉の方が上だろう。脂身、というと顔をしかめる輩もいるだろうが、侮ってはいけない。だいたいハンバーグに合い挽き肉を使うのは、豚肉(の脂)のうま味や香りを加えるためであって、牛肉を節約しているわけではない。ハンバーグに関して、よく牛肉100%を謳う店を見かけるが、味わいの要素が一つ欠けていると言っても過言ではない。これから書くことを読んでいただければ納得がいくと思う。
そのうち詳しく紹介しようと思うが、僕が料理に目覚めたのはまだ高校生ぐらいの頃。そのきっかけを作ったのが、当時放送されていた「世界の料理ショー」というTV番組だった。知っている人は多分、思わずにやりとしてしまう、そんなカルト料理番組だ。グラハム・カーという有名な料理研究家が、そのはちゃめちゃな話術を披露しながら一品仕上げる、という内容で、何を隠そうかの有名な料理番組「男子ごはん」のルーツでもある。そんな「世界の料理ショー」で使われていたある調理器具が、豚の脂身のおいしさ、香りの良さを如実に物語っている。それは直径1.5センチ弱、長さ40センチほどのステンレスパイプを縦に割ったような、雨樋のような形状の器具で、先が削(そ)いであって竹槍のようになっている。実はこれ、牛肉のブロックに豚の脂身を挿入するためのもの。そんな道具があるんだねえ。使い方は、細く切った豚の脂身を雨樋状の部分に挟み込んでパイプごと牛肉に差し込み、肉全体を押さえながら引き抜く。すると脂身だけが中に残る。これを何回か繰り返し、その牛肉をローストすると、火が通るに従って牛肉に豚の脂身の味と香りが染み渡る、という案配だ。この料理法やそのための器具が存在することが、肉料理における脂身の役割の大切さを物語っている。しかも、あえて豚の脂身(※)。
もう一つ言いたいことがある。A5ランクの牛肉は確かに美味かった。しかし脂が多すぎて満足のいく量を食べられなかった。そもそもマグロの大トロには大トロの、赤身には赤身のおいしさがあるように、牛肉の赤身にも赤身ならではのおいしさがある。A5ランクの牛肉は、本来赤身であるはずのフィレにまでサシが入っていて、これは赤身のおいしさに対する冒涜と言うべきものだ(大げさだってば)。ところがサシの入っていない高級和牛のフィレとなると、それはそれでなかなか見つからない。目下のところ、これは我が家の食生活における最大のジレンマの一つとなっている。
※ この記事を読んで思い当たった人、いませんか?実はある料理マンガで、この方法を安い輸入牛の肉を美味しくソテーする方法として紹介している。ものがステーキなので、あの器具は使っていなかったようだけど。ついでに言うと、フィレの周囲にベーコンを巻いてソテーする料理もある。