夏と言えば怪談・・・なんだけど(2)
2014年のNHKの番組(※)で、2013年にイギリスのある古城で行われた、科学者の集団による心霊現象の科学的調査の様子が紹介された。あまり知られていないが、こういった試みは、実はこれまでに何度も行われている。そうしたなかでわかってきたことや、発表された仮説がなかなかに興味深い。
最近の研究で、幽霊が目撃される場所では電磁波の異常が検出されることが多い、ということがわかってきた。これによって、現象が起こっている時にカメラなどの機器に異常が起こることは説明できそうだ。ただし、幽霊が出現することによって電磁波異常が起こるのか、何らかの要因で発生した電磁波異常によって、心霊現象(に見える何か)が起こるのかはわかっていない。
怖い体験をしたり、恐怖を感じる場所に行ったりした時に冷気や寒気を感じるのも、現実に起こることらしい。哺乳類は危機に瀕すると、自動的に体温を下げる機能が備わっている。この現象は、熱を感知することによって獲物の位置を特定する、蛇などの天敵から身を守るために備わった機能なのだそうだ。人間では心理的に恐怖を感じた時にも同じ事が起こり、このときに寒気を感じるというのだ。いわゆる「冷や汗をかく」というのも同様の反応のようだ。実験では、金網越しに蛇と対峙したネズミの体温が急激に下がっていく様子を、サーモカメラで撮影して見せた。ただ、この場合気温や室温には変化は起こらないので、真夏なのに吐く息が白くなった、といった現象は説明できない。
こうした研究の先駆けとして、1882年、イギリスにおいて「心霊現象研究協会(SPR)」が設立された。これは当時の著名な科学者や大学教授が設立した大真面目な組織で、主な会員にはマリー・キュリー(キュリー夫人。ノーベル賞を2度受賞 物理学/化学)、アンリ・ベルクソン(ノーベル文学賞受賞)、マーク・トゥエイン、ルイス・キャロル、カール・ユング、コナン・ドイルなどが名を連ねている。心霊現象を盲信するわけではなく、あくまでも研究のための組織で、インチキ霊媒師のトリックを見破ったりすることもあった。また、あまりに現実的な活動を行ったために、心霊現象を信じる立場の会員が大挙して脱退したこともあったそうだ。
ウィキペディアによれば、SPRは今も存続していて、2004年までは歴代会長を追跡することができるという。ちなみに2004年当時の会長はロンドン大学の数学および天文学の教授で、バーナード・カーという人物。また、NHKによれば2013年にSPRの科学者グループが、イギリスきっての心霊スポット、マーガム城の調査を行っている。NHKが番組で紹介したのはこのときの調査の様子だ。マーガム城では第2次世界大戦中に駐屯していた兵士の多くが異様な音を聞き、移動する不定形の光を目撃している。冒頭で述べた電磁波異常についての報告は、この調査によってなされたもので、この電磁波が人間の脳、特に視覚野を刺激すると、脳内に光の塊のような幻覚が形成されるという。この仮説なら、特殊な電磁環境に置かれた複数の人間が同じものを目撃したことを説明できる。ただし、電磁波の異常そのものの原因や、それに付随するその他の現象、また兵士たちの目撃談以外の事案(はっきりそれとわかる男性の幽霊を多くの人が目撃している)を説明するには至っていない。
まだまだ解明にはほど遠いが、胡散臭い心霊番組や特殊効果を駆使したホラー映画をよそに、心霊現象を真剣かつ科学的に解き明かそうとする試みが今も脈々と続けられているという事実は、知っておいても良いだろう。
※ 2014年放送 超常現象第1集「さまよえる魂の行方」(現在NHKオンデマンドで視聴が可能)