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 夏といえば怪談 2022 金縛り考 

 金縛り。長い人生のなかで2回だけ経験がある。1回目は何ということもなかったが、2回目に経験したそれはご多聞に漏れず、何とも薄気味の悪いものだった。

 金縛りについては研究(?)が進んでいて、入眠時に起こるとか、脳が目覚めていて体が眠っている状態だとか、疲れている時になりやすいとか諸説あるが、あの2回目の気味の悪い感覚は、それだけで説明できるものではないような気がする。

 当時中学校教員をしていた僕は、その日、スキー実習を伴う宿泊学習から帰ってきたところで、確かにかなり疲れていた。早々に布団に入った(当時はアパート住まいで、布団で寝ていた)が、しばらくしてふと目が覚めた。照明を点けたまま寝てしまったのか、部屋の中は明るく、見える範囲にはいつも通りの室内が見えている。しかし、体が動かない。「金縛りだ。珍しいな。」そんなことを考えながら、ある事に気付いた。僕は左側の体側を下にして横向きに寝ていたのだが、上を向いている右の体側、その腰と脇腹に手が乗っている感触がある。「えっ!?」次の瞬間、その2本の手(多分誰かの両手)に力が入り、僕を仰向けにしようとし始めた。当時僕は一人暮らしだったから、部屋には僕以外誰もいない。僕は左を向いて寝ている。2本の手は背中側から僕を引っ張っている。もし仰向けにされたら、あるいは右側を向かされたら、いったい僕は何を見ることになるのだろう。そう思った瞬間、どっと恐怖心がわいてきた。体は動かせなかったが力を入れることはできたので、僕は右側を向かされないように、必死で力(りき)んで抵抗し続けた。その後のことは覚えていない。気がつくと朝になっていた。それ以後何かが起こったということもない。あれは夢だったのか?それともやはり金縛り?僕は基本心霊現象など信じない質(たち)だが、あれは怖かった。今でも、あの手の感触は忘れられない。

 次は大学時代に友人から聞いた話。ある晩、深夜に目覚めると金縛りになっていた。両手を頭の上の方に投げ出し、バンザイの姿勢で仰向けになっていたらしい。気がつくと、その投げ出した両手に何かを握っている感触がある。顔を向けることができないので確認できないのだが、意識はそれが何かを理解していた。それは猫の足だったのだ。両手にそれぞれ前足と後ろ足。アパート住まいの彼は、もちろん猫など飼っていない。それでも彼は冷静だった。「窓を閉め忘れたかな。」それで猫が入ってきたのではないか、そう思ったという。状況の異常さは、その時は意識に登らなかったらしい。翌朝目覚めると、彼は真っ先に戸締まりを確認した。猫が入ってくるような隙間はどこにもなかった。彼はその時になって初めて恐怖を感じたそうだ。

 金縛りは人間の体の仕組みにその原因があるというのは僕も理解している。だがよく言われるような恐ろしげな感覚がつきまとうのはなぜなのだろう。僕が感じた2本の手も、友人が掴んだ猫の足も、過去の記憶には無いものだ。ということは、これらは自分の心の奥底に潜む普遍的な恐怖心が、無意識のうちに作り出したものだろうか。それとも、もしかして・・・。