カテゴリー
未分類

 袋田に行ってきた

 先週、袋田に行ってきた。そう、日本三大名瀑の一つ、「袋田の滝」がある、あの袋田。自宅から車で1時間半ほどの距離なので、数年に一度は訪れる。というのも、滝の近くに「昔屋」という美味い蕎麦屋があるんです。ちなみに蕎麦はこのあたりの名産品。その店では同じく名産である蒟蒻の刺身や田楽も食べることができる。それともう一つ、「豊年満作」という、ちょっと変わったネーミングの温泉旅館があって、ここで売っている手作りのアップルパイと温泉饅頭も美味しい。

 今回袋田に足が向いたのは、実は夢に蒟蒻の味噌田楽が出てきたことがきっかけだった。よくある話で、一度頭に浮かぶとどうしても食べたい。僕のなかでは、蒟蒻といえば袋田だ。「行くか?」と家族に声をかけたところ、「よし、蕎麦を食べて饅頭を買おう」と返事が返ってきた。名瀑見物は事のついで、というわけだ。まあ、それも良いか。どうせ滝の様子はこの先何百年経っても大して変わらないだろう。

 少し早めに家を出て、新緑が芽吹き始めた山並みを眺めながら、車で走ること1時間半。10時前には滝の近くの町営駐車場に車を止めることができた。近くといっても、滝までは歩いて10分ほどかかる。

 歩き始めて気がついた。この道、音がしない。小鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてくるだけで、人工的な音が全く聞こえない。平日で時間が早いせいか、あたりに人影はなく、車もほとんど通らない。時折聞こえる小鳥のさえずりが静寂を強調しているようにも思える。この「静けさが聞こえる」感じ、滅多に経験できるものじゃない。自ずと歩調もゆっくりになっていく。

 忘れていた何かを思い出させるような、そんな静けさに包まれながら山間(やまあい)の道を歩いて行くと、遠くから川のせせらぎや土産屋が開店の準備をしている音が聞こえてきた。それはそれでなんとなく楽しい。よし、次に来る時もこの時間帯を狙おう。

 さっさと滝を見物し、遊歩道を少し歩いたあと、お目当ての蕎麦屋で少し早めの昼食を摂った。僕は山芋とろろ蕎麦(冷)、カミさんは元祖けんちん蕎麦(温)、娘は奥久慈シャモの地鶏蕎麦(冷)を頼んだ。相変わらずここの蕎麦は美味いなあ。茹で加減が絶妙だ。小諸の名店「草笛」にも負けていないと思う。だが残念なことに鮎の塩焼きは今日は欠品。えー、目の前の川を泳いでるじゃんか。でも鮎の解禁は6月だから、捕まえて食うわけにもいかないな。あ、勿論蒟蒻の味噌田楽は食べましたよ。何せ夢にまで見たからね。

 食事のあと、例の温泉旅館に寄ってアップルパイを買った。このアップルパイはなぜか駐車場の仮設スタンドで売られている。初めて買ったのは10年以上前。それ以前のことはわからないが、息が長く、周辺で同じ袋を持ち歩いている人をよく見かけるので人気商品なのだろう。その後饅頭を買おうと館内の土産物売り場に行ったのだが、これがなぜか品切れ。温泉宿で温泉饅頭を切らしているなんて、そんなことがあるだろうか。フロントで聞いたところによると、近くに同じものを製造販売している本店があるというので、そちらに行ってみることにした。

 朝来た道を5分ほど戻ると、その店があった。「奥久慈屋吉餅(きちべい)」という思いのほか立派な店で、店内には饅頭の他に、常陸大黒(ひたちおおぐろ)という二まわりも大きな黒豆を使った餅菓子が数種類並んでいた。どれも手作り感があって美味しそうだ。もとより和菓子好きなので、余計なものまで色々と買い込んだ。また一つ、旅の理由ができてしまったなあ。

 帰りの時間に余裕があったので、最後に常陸大宮市に新しくできた道の駅に寄ってみた。「かわプラザ」という別名があって、名前のとおり、裏手を久慈川が流れていた。しかも河原まで降りられるようになっている。店内を覗いた後、せっかくだから川のそばまで行ってみることにした。道が整備されているのは途中までで、その先に自然のままの、川石に覆われた河原が広がっている。河原で遊ぶなんて、何十年ぶりだろうか。

 川面(かわも)を眺めていると、不意に娘が「ねえ、水切りできる?」と聞いてきた。「あったりめえよ。昭和生まれだぞ。」早速適当な平石を見つけると、焼きの回ったサイドスローで投げて見せた。2回跳ねた。何十年ぶりにしては悪くない。「どうやるの?教えてよ。私やったこと無い。」「見て真似したほうが早いよ。」そう言ってもう一度投げてみせると、娘は何回かトライしただけで成功させた。誰に似たのか、遊びに関する感覚だけは鋭いな。

 「ところで石選びはな、軽けりゃ良いってものでもないんだ。」僕はそう言いながら、今度は少し大きめの平石を選んで投げた。すると石は3回ほど跳ね、そのあと水面を滑るように進んでから水中に消えていった。それを見て、「あ、今のすごい!」と娘。僕はちょっと良い気分だ。カミさんはそんな僕らの様子を笑顔で眺めていた。薄曇りだった空から、いつの間にか陽が差し始めていて、少し動いただけなのに体が汗ばんでいた。

 始まりは確かに味噌田楽の夢を見たことだったんだけど、終わってみれば思いのほか良い1日になったようだ。近いうちにまた饅頭買いに来ようかな。

今回立ち寄ったお店

・昔屋(蕎麦処)

・滝見の宿 豊年満作(手作りアップルパイ)

・奥久慈屋吉餅(黒糖饅頭 他)

・かわプラザ(道の駅 常陸大宮)

カテゴリー
未分類

 食の東西対決

 僕は関東に住んでいる。だけどすき焼きは関西風が好きだ。ザラメと醤油のみで味付けする。ある時TVでその調理法を知り、試してみたのだが、すっかり気に入ってしまい、以来関東風には戻れなくなってしまった。関東風は割り下を使うので、「すき焼き」とは言うものの、むしろ「鍋」に近い。これは多分、「牛鍋」の存在が影響しているのだろう。

 ウナギの蒲焼き、これも関西風の方が好きだ。蒸しの工程を含まず、しっかりと小骨まで焼き上げるスタイルだ。柔らかすぎない食感がいい。京都に行った時に、錦市場にある店でお土産に買い込んでくるのだが、地元ではなかなか手に入らないので、普段は関東風を食しているというのが現状だ。だが正直なところ、すき焼きほどのこだわりはない。どちらかと言えば、という程度のものだ。

 考えてみると、桜餅も関西風の方が好きだなあ。小麦粉を焼いた皮よりも、あの「道明寺」のもっちり感が好きだからだ。ちなみに僕は桜の葉は剥がして食べる。葉を一緒に食べるのが通、という説もあるが、どうも怪しい。というのも、店によっては2~3枚の葉で包んであったりするからだ。これでは何を食べているのかわからんではないか。そこはやはり、香りだけを楽しむのが粋なようだ。

 ところで、僕はすべてが関西風好みというわけではない。例えば、雑煮は関東風がいい。醤油仕立てのだしに焼いた角餅を入れ、鶏肉やかまぼこ、三つ葉などを具に使ったあれだ。京都風の、甘めの白味噌仕立てなんて言われると、箱根の山の向こうまで逃げ出したいぐらいだ(近づいてるじゃんか)。

 一番判断が難しいのは蕎麦。江戸前の蕎麦つゆは、それを持って関東風とは言いがたい。じゃあ、どこの蕎麦が関東風かというと、これはこれで釈然としない。間を取って、長野県あたりで食べる蕎麦が一番美味い、ということにしておこう。うどんについては、これは蕎麦とは似て非なるもので、つゆの味は何といっても四国あたりにとどめを刺す。

 話を世界に広げて、今度は洋の東西。ウィーンの銘菓、ホテルザッハのザッハトルテは、我が家では国産の「デメル・ジャパン」のものがお気に入りだ。というか由緒正しいザッハトルテはこの店のものしか手に入らない(※)。

 「デメル」の本店はウィーンにある菓子店で、創業は1786年。その昔、ザッハの子孫から販売権を買い取ったとして、ホテルザッハとどちらが元祖か裁判で争ったこともある。結果はレシピを考案したホテルザッハの勝利。そのホテルザッハのものを現地で食したことがあるが、日本人には少々甘すぎる気がした。だがあえて言うと、デメル・ジャパンのものはアンズジャムの酸味が「元祖」に比べて弱い。それもそのはず、ジャムの層が1層しかないのだ(これがデメル製の特徴の一つ。ホテルザッハのものは2層で、このスタイルがオリジナルと言われている)。

 もう一つ、デメル・ジャパンのものはコーティングのシャリシャリ感もあまり感じない。ウィキペディアによれば、コーティングは純粋なチョコレートではなく、「チョコレート入りのフォンダン(糖衣)」ということだから、もう少しそれらしい食感があっても良さそうだ。要は好みの問題だが、それだけに何とも悩ましいところだ。

 ところでもうお気づきだと思うが、もし日本で売られているデメル・ジャパンのザッハトルテが、日本向けの味ではなくオリジナルレシピで作られているとすれば、「洋の東西対決」は成り立たないことになる。むしろホテルザッハVSデメルと言うべきか。でもまあ、それはそれということで。

※ 実はホテルザッハも通販を行ってはいるのだが、日本向けのページがあるわけでもなく、文面はすべて英文(独文?)で、気軽に購入するにはちょっとハードルが高い。