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 夏と言えば怪談・・・なんだけど(3)

 民放の心霊番組を見ていて、あることに気がついた。この手の番組は、以前は不思議なものが映り込んでいる投稿動画がウリだったのだが、最近ではこれらに代わって芸人による現地調査のウエイトが多くなり、現場で起こる超常現象も音響的なものが主流になってきたようだ。突然鳴り響く打音や、走り回る足音、人間のうめき声のような音。天邪鬼な言い方をすれば、音なら大した特殊効果もなしに収録できる。さらに、まことしやかな噂があって、調査の過程であまりにもはっきり霊が映ると、「TV放送にふさわしくない」とか、「やらせと思われてしまう」といった理由で放送できないというのだ。なんて都合のいい話だ。だったら何で調査するんだよ。

 実際6月に放送された「口をそろえた怖い話」では冒頭、「内容を一部変更してお送りしております」という字幕が流れ、番宣では流していた肝心の心霊現象(白い手が映っている動画?)を「(おぞましすぎて)視聴者にお見せすべきではない」という判断で、泣く泣くカットしたという。この番組に関わったオカルト芸人が、放送直後に自分のYoutubeで「実はこういうものが映っていた」と解説したり、ネット上で、放送できなかった理由が暴露されたりしているのを見ると、チラ見せの番宣も含め、これらはすべて仕組まれたマルチメディア的構成ではないのか、とさえ思えてくる。

 実は同じ場所で別の日に撮られたYoutubeのチャンネルにも揺れ動く白い手が映りまくっている動画がある。ただ、それらのチャンネルでは、あまりにも長く見えていて、「私はここよ」と言わんばかりにアピールしたり、ライトを向けるとそれを避けるように引っ込んだりするなど、なんともわざとらしい。さらに根本的な疑問というか、僕にとってはこちらの方が重要な問題なんだけど、あちらの住人がせっかくこちらの世界に出現するというのに、手だけを物質化(光が反射したり、影ができたりする)してひらひらさせるなんて、そんなことがあるだろうか。本物かどうかはともかく、動機の面から考えれば、たとえば僕だったら、自分が誰かわかってもらえるようにもっとわかりやすく出ると思う。だって、もう一度会いたい人と再会するにせよ、相手に恨みを伝えるにせよ、「ところで今の、誰?」では出る意味がないでしょう。手だけ出して、「おーい、オレだよオレ」なんてアプローチしたって誰だかわからんがね。そもそもこの霊がやっていることは平安時代の鬼や物の怪(もののけ)レベル(※)だ。面白がって悪戯しているようにしか見えない。それって、幽霊出現の理由にはなり得ない気がするんだけどなあ。

 まあそんなわけで、最近では比較的安全な「異音」を中心に収録あるいは編集された番組が多いらしい。7月に放送された「日本で一番怖い夜」では、廃ホテルの調査で「怖い」より「うるさい」と思えるほど異音が鳴りまくってたしなあ。でもねえ、あちらの住人がそうそうこちらの世界の都合に合わせてくれるなんて、そんなことある?それとも一時期「長い黒髪に四つん這い」モードが流行ったように、あちらの世界では、音で攻めるのが最近のトレンドだったりするのだろうか。

※ 今昔物語 巻二十七第三話「桃園の柱の穴から幼児の手が出てきて人を呼ぶ話」参照。参考までに、平安時代には人を取って食う鬼(伊勢物語 第六段 他)や、死体の良い部分をつなぎ合わせて美女を作る鬼(長谷雄草子)の話もある。