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 ホラーには外連味の効いた演出が欲しい

 ホラー映画には「外連味(けれんみ)」が欠かせない。前にもちょっと書いたが、本当に幽霊というものが存在するとしたら、普通に考えて、相手が誰かを認識できるようにわかりやすく、生前の姿で現れるだろう。それは状況によっては少しも怖くない。映画はエンタティンメントである以上、そこには怖さの演出が必要になる。つまり「外連味」だ。ただし、ここで僕が言いたいのは、「エクソシスト」のリーガンや各種ゾンビのような「人体破壊」的な演出ではない。いわゆる「様式美」的な演出のことだ。良い例がある。ジョン・カーペンター監督の「ザ・フォッグ(1980)」だ。

 映画のラストシーン、教会の中で過去の幽霊たちと対峙する主人公たち。幽霊たちは光る霧を背景にシルエットとなって浮かび上がる。その目だけが真っ赤に光っている。これですよ、これ!これぞ様式美。だって、幽霊の目が赤く光るなんて、理屈に合わないもの。必然性も無いし。でもやっちゃうんだよ。これだからカーペンター大好き!なんだよなあ。

 そもそも「外連味」というのは歌舞伎などで言う見た目重視の演出のこと。これが上手くいくと、「怖い!」という感情よりも、「待ってました!」みたいな満足感が湧いてくる。「こういうのって、やっぱり歌舞伎なんだ」とか思う。このパターンは1983年の映画「ザ・キープ」でも使われていて、邪悪な存在の目と口が映像処理で赤く光っていた。ハレーション効果で赤をのせているらしく、シルエットでなくても光っている。こちらは1種の妖怪(悪魔?)だから、理屈も必然性もあったものではない。こういうものなんだ、で納得。ただし、映画の出来は散々だった。前半はすごく好調(実物のドイツ軍のハーフトラックとか出てきちゃうし)だったのに、いったい何があったのだろうか?同名の原作(ポール・ウィルソン著)はナチスドイツの親衛隊と国軍の拮抗とか、ユダヤ人の学者さんとかが絡んでとても面白かっただけに残念でならない。

 そう言えば、最近スティーブン・キングの「IT」が再映画化されて話題になったが、僕は前作(初映画化のもの。TV映画)のほうが好きだ。確かに新作は映像技術も素晴らしいし、キャスティングもなかなかいいのだが、いかんせんペニーワイズが怖すぎる。何しろ普段から怖い。そこへ行くと前作のペニーワイズは、普段は陽気で楽しいピエロそのものなので、そのクレイジーさ加減がより際立っている。特に図書館での悪ノリというか奇行ぶりは必見。

 「外連味」の話だった。さすがに赤く光る目は時代遅れなのか、最近では新しいパターンが採用されている。例えば白目のない真っ黒な眼球。それと、人間離れした歩き方、かな。真っ黒の眼球は、欧米では悪魔が乗り移ったときのイメージとして、昨今よく使われている。変わった例としては「フロム・ヘル」(※)で使われた、切り裂きジャックの真っ黒なキャッチライト(反射光)のない瞳があげられる。あれはあれでかなり邪悪な感じだった。奇異な歩き方は日本のオリジナルと言っていいだろう。ちなみに、ゾンビの歩き方は、あれは死体なので文字通り神経が行き届かない故のものと解釈している。死後硬直もあるだろうし。そういう見方をすれば、伽耶子(呪怨)の四つん這いは生前最後の、傷を負って這いずりまわる姿、と言えなくもない。そうなるとやっぱり貞子(リング)は別格か。いやいや、「回路」に出てきた女性の幽霊の歩く姿もなかなかのものだった(颯爽と歩く、が、途中でよろける。これが妙に怖い)。ただし、これらの例は根源的な違和感を感じさせるもので、すでに歌舞伎を超えたところにあると言えるかもしれない。

(※)「フロム・ヘル」2001年制作 ジョニー・デップ主演(ただしギャグは一切無し)。切り裂きジャックの正体についての新解釈を映画化。厳密にはホラーではないが、十分ホラーっぽい作品。でも根幹はメロドラマかなあ。 

〈追記〉 外連味とはまるで関係ない恐怖描写をひとつだけご紹介。イギリス映画「回転」のワンシーン。舞台となる豪邸の庭園にある東屋(あずまや)から、大きな池の向こうにたたずむ女性の幽霊を目撃するシーン。真っ昼間で、遠い。顔などは判別できない。彼女は黒衣をまとっている。視線をそらしてもそこから消えず、動きもなくたたずみ続ける。実際に幽霊を目撃するときはこんな感じなんだろうな、と思う。何しろ消えてくれないのが怖い。陽の光を浴びて存在し続ける確かな存在感が怖い。このシーンを初めて見たとき、「あれって、幽霊なんじゃ・・・」という困惑から始まって、「やっぱりあれ、幽霊だよ」という確信に至る心境の変化を、知らず知らずのうちに登場人物と共有してしまっていた。「○○、うしろうしろ!」どころの騒ぎではない。監督が上手いんだろうなあ。原作は「ねじの回転」。ヘンリー・ジェームス著。映画は1961年制作、モノクロ作品です。