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 世界の料理ショー

 かなり昔のことになるが、「世界の料理ショー」という番組があった。何を思ったか、2012年に再放送されたので見た人もいると思う。グラハム・カーというイギリス系(?)の料理研究家が出演していた。前半は世界の有名なレストランの食レポと、ちょっとした小咄。後半はスタジオで、レポした料理を、時にアレンジを加えながら観客の前で調理してみせるのだが、この調理がすさまじい。あれで料理が本当に美味しく出来上がるのか、不安でたまらない。そんなふうだから失敗することもある。だがグラハムはいっこうに動じない。カットもされずに放送されている。もしかしたら、オリジナルは生放送だったのかもしれないが、大胆としか言いようがない。まあ、良い時代だったのだろう。時代といえば、グラハムは調理しながらワインを飲んでいたが、放送で「ワイン」という言葉を聞いたことがない。全て「葡萄酒」という言葉が使われていた。時代がわかろうってもんだ。加えてグラハムの語りがすごい。今制作しようとしたら、多分「ピー」だらけで何を言っているのかわからなくなってしまうんじゃないかな。いや、むしろ同じ内容では制作の許可すら下りないかも。何しろ品のないジョークの連発なのである。先ほど「何を思ったか、再放送された」と書いたが、どんな形態で再放送されたのかは確認していない。その理由は後述するが、おそらく例の、「制作者の意図を重んじて・・・」などというテロップが入ったに違いない。

 その再放送の少し前に、職場でこの番組のことが話題になった。同年代の中には覚えている人もいて、大いに盛り上がったものだ。あまりに懐かしくて、うちに帰るとすぐ、ダメもとで検索してみた。するとどうだ。DVDのBOXがヒットしたではないか!いったいどんな大馬鹿者がこの企画を立ち上げたのだろうか。それを考える前にカートに入れていた。ここにも一人いた、大馬鹿者が。

 届いたBOXは作りもしっかりしていて、立派な解説書まで付いている。大馬鹿者が作ったようには見えない。その解説書を読んで驚いた。あの料理研究家、ケンタロウ氏が文章を寄せているではないか!当時声を当てていた有名な声優(故人)のコメントも紹介されている。そして、あのグラハムの下品な語りが日本独自の脚本である事が説明されていた。何と、大馬鹿者は日本人だったのか!声優も、「僕は当時二枚目の声を専門に当てていたので、この仕事はある意味ショックだった。」とコメントしていた。ちなみにケンタロウ氏は「当時、こんな料理番組があったのかと驚くと同時に、とても感動した。」と語っている。ケンタロウ氏といえば、交通事故に遭遇し、残念ながら今は療養中だが、あの「男子ご飯」をやっていた人である。実はこちらも欠かさず見ていたのだが、こんなところに原点があったとは・・・!考えてみると、構成や語りぐさが似ている。勿論、ずっと上品だけど。

 さて、本編を見て驚いた。記憶以上にいい加減だ。スタジオでタオルが燃えたり、フランベのために温めていたブランデーが温めすぎて吹き出したりしている。よく放送したな、と思う。水の量を量るのに手のひらを使ったり、ワインの分量を、鍋に直接注ぎながら「1、2、3・・・6オンス!」なんて数えて計ったり。塩コショウの量に至っては目分量そのもの。「ちょっと塩が足りない」なんて言いながら、仕上げ直前に足したりしている。「ああ、あんなんで良いんだ」と思ったことを今でもよく覚えている。

 他にも、整髪料でセットしたであろう髪の毛を手でなでつけ、その手で肉を触ったり(その逆も)は当たり前。今では絶対苦情が来ること間違いなし。さらに番組では、「スティーブ」というディレクターがいろいろといじられて笑いを取るのだが、この「スティーブ」というキャラは、日本語版のオリジナルとのこと。勿論画像にもそれらしい人物は登場するのだが、それをうまく利用して作り出したらしい。これはこれでなかなかのアイディアだった。さらにカメラワークなどを見ると、ある意味この番組は傑作かも知れない。下品な傑作。ちなみに再放送をチェックしなかった理由はもうおわかりだろう。僕は事前にディスクで全部見てしまっていたので、その必要が無かったのだ。だがあのタイミングからすると、DVDの発売と再放送の時期はわりと近かったのかも知れない。つまり、DVDの発売を記念して再放送が企画されたのではないかと、今ではそう考えている。

 僕は料理を趣味の一つにしていて、暇さえ有れば料理をしていると言っても過言ではないが、今思えば、小さい頃に見たこの番組の影響は大きいと思う。そんなこんなで、今も僕はビールを片手に料理にいそしんでいる。最近人間ドックで肝臓の数値が引っ掛かったので、多少控えめにはしているけど。だから娘たちにもよく言われる。「パパの料理は美味しいんだけど、見ていても作り方がまるでわからない。分量で教えてよ!」そう言われても計ったことがないのだから、教えようがない。さらに厳密に言えば、二度と同じ料理は作れない道理だ。僕のせいではない。全てグラハムが悪い。

 グラハム・カーは今も存命で、BOXでは解説書と映像で日本のファンに向けて挨拶している。その後しばらくして新たな映像が発見され、BOX2が出たのでそれも買ってしまった。「世界の料理ショー」を知っている知り合いが、「確かにあの番組はすごかった。でも、DVDBOXを二つとも買い込んじまうお前もすごいよ。」と言っていた。そうかな?・・・そうかも。

youtubeでも見られます、多分。

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 肉のあれこれ

 世間ではいまだに牛肉が肉の頂点に君臨しているようだ。僕もA5ランクの肉を食べたことがあるが、確かに美味しい。それは認める。だが脂身の香りは豚肉の方が上だろう。脂身、というと顔をしかめる輩もいるだろうが、侮ってはいけない。だいたいハンバーグに合い挽き肉を使うのは、豚肉(の脂)のうま味や香りを加えるためであって、牛肉を節約しているわけではない。ハンバーグに関して、よく牛肉100%を謳う店を見かけるが、味わいの要素が一つ欠けていると言っても過言ではない。これから書くことを読んでいただければ納得がいくと思う。

 そのうち詳しく紹介しようと思うが、僕が料理に目覚めたのはまだ高校生ぐらいの頃。そのきっかけを作ったのが、当時放送されていた「世界の料理ショー」というTV番組だった。知っている人は多分、思わずにやりとしてしまう、そんなカルト料理番組だ。グラハム・カーという有名な料理研究家が、そのはちゃめちゃな話術を披露しながら一品仕上げる、という内容で、何を隠そうかの有名な料理番組「男子ごはん」のルーツでもある。そんな「世界の料理ショー」で使われていたある調理器具が、豚の脂身のおいしさ、香りの良さを如実に物語っている。それは直径1.5センチ弱、長さ40センチほどのステンレスパイプを縦に割ったような、雨樋のような形状の器具で、先が削(そ)いであって竹槍のようになっている。実はこれ、牛肉のブロックに豚の脂身を挿入するためのもの。そんな道具があるんだねえ。使い方は、細く切った豚の脂身を雨樋状の部分に挟み込んでパイプごと牛肉に差し込み、肉全体を押さえながら引き抜く。すると脂身だけが中に残る。これを何回か繰り返し、その牛肉をローストすると、火が通るに従って牛肉に豚の脂身の味と香りが染み渡る、という案配だ。この料理法やそのための器具が存在することが、肉料理における脂身の役割の大切さを物語っている。しかも、あえて豚の脂身(※)。

 もう一つ言いたいことがある。A5ランクの牛肉は確かに美味かった。しかし脂が多すぎて満足のいく量を食べられなかった。そもそもマグロの大トロには大トロの、赤身には赤身のおいしさがあるように、牛肉の赤身にも赤身ならではのおいしさがある。A5ランクの牛肉は、本来赤身であるはずのフィレにまでサシが入っていて、これは赤身のおいしさに対する冒涜と言うべきものだ(大げさだってば)。ところがサシの入っていない高級和牛のフィレとなると、それはそれでなかなか見つからない。目下のところ、これは我が家の食生活における最大のジレンマの一つとなっている。

※ この記事を読んで思い当たった人、いませんか?実はある料理マンガで、この方法を安い輸入牛の肉を美味しくソテーする方法として紹介している。ものがステーキなので、あの器具は使っていなかったようだけど。ついでに言うと、フィレの周囲にベーコンを巻いてソテーする料理もある。