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 何としても食う

 土用干しというのか、先日、つけ込んでいた梅を干した。今年も良い感じに梅干しができそうだ。

 ここ数年、毎年のように自家製梅干しを作っているのだが、そこそこ面倒だし、それなりに時間もかかる。その手順も、どうしたらこんな発想が生まれてくるんだと思うようなことの連続だ。そんな作業にいそしんでいると、必ず思い出すことがある。それは「日本人って、何としてでも食うよな」ということ。

 皆さん、ヒジキの煮付けは好きですか?あの海藻は出荷前の下処理がとても大変。そのままだと、アクが強くて食べられたもんじゃないんだそうだ。昔ながらの方法だと、まず収穫したヒジキを鉄鍋で3~4時間炊く。しっかり噴きこぼし、それを一昼夜放置して蒸らす。よく水洗いして、網の上で1~2日天日干しし、波板の上に移して仕上げ干しをこれまた天日で半日。こうしないと食えないものを、こうまでして食おうとする情熱って、いったい何なんだ?しかも途中で諦めなかったところが凄い。

 茨城県北部名産の凍(し)みこんにゃくは製造にほぼ1ヶ月かかる。そもそも、アクが強くて食べられないこんにゃく芋からこんにゃくそのものを作るのも、「マジか」レベルでとても面倒。しかし、そのままでも食えるこんにゃくをなんで凍らせたかねえ。多分誰かが冬に出しっ放しにしちゃったんだろうな。そんでもって、食べてみたら美味しかった、と。始まりはそんなことだったんだろうと思う。それを「あーしたら」「いやこーしたらもっと・・・」なんていろいろやってみるうちに、今の製法ができあがったのだろう。しかも厳寒の季節に20日間、野外に放置して、水をかけては凍らせ、天日で解凍してはまた凍らせ、これって、今で言うフリーズ・ドライじゃないか?誰が思いついたか知らないが、その発想が凄い。

 極めつけはフグの卵巣。ご存じのように、フグはその内臓に致死性の毒をもっている。テトロドトキシンといって、ハイチでは例のゾンビを作るときに、このテトロドトキシンを・・・フグの話でしたっけね。

 フグを料理する料理人は特別な免許を取らなければならないが、それでも毎年中毒者が10人以上、死者も数年に1人の割合で出ている。縄文時代の住居跡から、家族とみられる遺体(もちろん白骨化)とともにフグの骨が発掘されたことは、その筋では有名なお話。ところで、特にフグの卵巣にはテトロドトキシンが多く含まれているのだが、その猛毒の卵巣を何とかして食おうとしたやつがいる。

 「フグの卵巣のぬか漬け」、これは石川県の名物で、まずフグの卵巣を1年以上、30パーセントほどの塩漬けにする。その後ぬかに漬けてさらに1年あまり。要するに最低でも2年、長いと3年近くかかるわけだ。そこまでして食うかねえ。肝心のお味のほうは良い意味でかなりの珍味とか。これを製造するのにも免許が必要で、製品は石川県の予防医学協会の検査を経て出荷されるそうだ。だが、解毒のメカニズムはいまだによくわかっていないという。

 ヒジキもこんにゃく芋もフグの卵巣も、アクが強すぎたり毒があったりで、本来であれば食べられない素材だった。それを知恵と勇気(特にフグは)で、何とか食べられるように加工したわけだ。だがこうした食品は、食うものがなかったから何でも食べるしかなかった、というだけの理由では絶対生まれてこないと思う。さても、日本の食文化の、何と奥の深いことよ。