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 なるほど、イタリア料理。

 料理を趣味にしていると、面白いことに気付く。そのお国柄が料理によく現れていることもそのひとつだ。例えばイタリア料理。

 フランス料理や中国料理には、なんでこんなに時間がかかるんだ、みたいな料理がよくあるが、イタリア料理はあまり時間のかからないものが多い。誤解を恐れずに言うならば、「料理人、楽してるなあ」という感じ。イタリア人って、「シェスタ」ていう習慣があるでしょう。要するに「お昼寝タイム」だ。それを大人が、仕事中にとる。そんなことからも、時間節約のために手を抜いてるんじゃないか、などと思いたくなってしまう。しかし、皆さんご存じのようにイタメシは美味しい。僕のレパートリーにもイタリア料理は結構ある。そして実際、作るのは楽だ。自分で作るようになって、その理由がわかった。

 イタリアの有名な食材で、知っているもの、何があります?例えばパスタ、トマト、バジル。その他にも、ああ、言われてみれば、というのがアンチョビ、生ハム、バルサミコ酢。超高級品も存在する。  

 日本では、アンチョビは敬遠されることが多い。子ども連れでアンチョビ入りのピザをオーダーすると、「アンチョビが入っていますが大丈夫ですか?」なんて念を押されることがよくある。しかし、このアンチョビを調味料として使うと実に効果的で、ソースの味に深みが出る。特にトマトとの相性は抜群だ。そんなわけで、うちの冷蔵庫には欠かしたことがない。仮に魚介のトマトソース・パスタを作るとしましょう。まずオリーブオイルでニンニクとタマネギのみじん切りを炒め(ここで例のロースト・オニオンを使うとえらく時短になる)、殻つきのエビ、あさり、イカの切り身などを加えて炒め、塩・黒こしょうを振る。この時にアンチョビのフィレ(瓶詰めで売っている)を、4人前の材料に対して2本ぐらい、細かく刻んで一緒に炒める。これを入れるか入れないかで味が格段に違ってくる。あとはカットトマトの水煮缶とピューレなどを加え、塩・コショウで味を調え(ソースなので塩は強めに)、必要に応じて水を足しながら軽く煮詰める。そこに1分短く茹でたパスタを加え、加熱しながら絡めてできあがり。仕上げにイタリアンパセリを散らし、オリーブオイルを軽く振れば完璧。いや、違うな。炒めた具材をいったん取り出し、パスタを入れる直前に戻した方が良い。そうすることで,エビやアサリに火が通り過ぎるのを防ぐことができる。これで完璧。説明しなければアンチョビが入っていることなど誰も気付かない。

 折角だからもう一つ。イタリアン・ポークソテー。こちらはバルサミコ酢を使う。

 豚ロース(ソテー用)を包丁の背で軽く叩き伸ばしてスジ切りし、塩・コショウして強力粉を軽くまぶす。バターとオリーブオイルを1:1の割合でフライパンに溶かし、肉を両面こんがりと焼く。肉を取り出し、そのフライパンにバルサミコ酢、赤ワイン、醤油を3:3:1(醤油はお好みで増やしても良い)の割合で加えて、軽く煮詰める。焼きつきそうなら水を少量加える。味を見てOKならフライパンに肉を戻して絡める。バターの風味が好きな人は、肉を戻す直前に少量のバターを加え、溶かしてやるとさらに風味が際立つ。大ぶりのフライドポテトを添えていただく。ここで大事なのは、肉を選ぶときにしっかり脂身がついているものを選ぶこと。最近、脂身の部分を削り取ったロース肉をよく見かける。全く、余計なことを。豚の脂身には独特の甘みと香りがあるので、僕としてはそれをしっかりソースに使いたい。嫌いな人は食べるときに残せば良いのだ。

 イタリアにはすごい食材がたくさんある。腕利きの職人がそれらの食材をプロデュースし、料理人はその組み合わせを考え、最大限に生かすことによって、美味しい料理を作りだす。フレンチのシェフがクリエイターだとしたら、イタリアンのシェフはコーディネーターかもしれない。そういう意味では和食に似ている。フレンチ・シェフはフォン(だし)から自分で作るが、和食の料理人は鰹節は作らない。出し昆布も,信頼する業者から手に入れるのが普通だ。そこがイタリアンの構造と似ている気がするからだ。 そこへいくとドイツ料理なんて、質実剛健そのものだ。うちで時々「アイスバイン」(注)を作るが、塩気の強い付け汁につけ込んで一週間待ち、それをただの水と少しのスパイスで2~3時間ゆでるだけ。この素っ気ない料理法で美味いものができあがってしまうからすごい。材料も一般的な物がほとんどだから、家庭でもレストランと同じ味のものを作りやすい。こうしたドイツ気質丸出しの素朴な料理は、悪名高きイギリス料理の「とりあえず食えるように料理してあります」的な物とは一線を画する気がする。

(注)アイスバイン

 塩漬けの豚肉(正式にはバイン=すね肉を使う。)を長時間ゆでた料理。個人的にはモモ肉とかロース肉を使った方が美味しいと思います(すね肉はコラーゲンが豊富で、豚足に近い)。ドイツワインに同じ名称のものがあるが、こちらは「アイスヴァイン(綴りもBとVでちがう)」。冬になるまでブドウの果実を摘まずにおき、糖分が極限まで凝縮した物で作った極甘口のワイン(ヴァイン)のこと。キンキンに冷やして飲むと、美味いんだこれが。ただし、「何かの料理に合わせよう」なんてことは考えないほうが良いと思います。あくまでもデザートワイン、ということで。ちなみ「アイス」とつくのは「ブドウが凍るほど寒い時期まで摘まずに置く」という意味。そうすることで水分はほとんどなくなり、糖分だけが濃縮されて残るというわけだ。このタイプのワインは世界各地で作られており、日本にもある。また、この製造過程でブドウに運良く貴腐菌がつくと、できあがるワインは「貴腐ワイン」という希少価値の高い極甘口の高級ワインになる。