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 繋がる記憶

 音楽というのは不思議なもので、その時々の記憶と一度強く結びつくと、それはもう別々には思い出せないほど強固なものになったりする。多分皆さんもそういうこと、あるでしょう。例えばある曲を聴くとその時好きだった女の子を思い出してしまうとか。ところが僕にはもっと不思議な経験がある。それはどういうことかというと、ローティーンの時に聴いた曲と、5~6歳の時に見た風景が結びついたのだ。

 ローティーンの僕が、その時聞いていたのはイギリスの「10CC」というロックバンドのファーストアルバム。その中の「ヘッドライン・ハスラー」という曲を聴いた時に、なぜか5~6歳の時に見た風景を思い出したのだ。その風景というのは、ある個人医院の薬剤室の窓から見えた、当時住んでいた市街の風景だった。窓の両脇には薬剤の箱が積み重なっていて、北側の部屋だったために室内は暗く、窓の外の、順光に照らされた明るい市街地が際立って見えた。市街と言っても昔のことだから、家並みの瓦屋根の向こうにデパートや電電公社(現NTT)のビルがそそり立って見える程度で、その上に広い空が広がっていた。季節は定かではないが、冬の午後のような赤みを帯びた光だったのを覚えている。

 当時その医院の先生夫妻と僕の祖父母は懇意にしていて、診察以外にも僕を連れて遊びに行くことがよくあった。その時の記憶だろう。薬剤室には色々と目新しいものがあって、よく入り込んでは遊んでいた。昔の注射液はガラスのアンプル※に入っていて、細くなった首のところをハート型の薄い、多分石?で傷つけてから折って使っていた。このハート型の石?をいっぱいもらって喜んでいた記憶がある。それから薬包紙(粉薬を包むパラフィン紙。昔はこれが一般的)。よく折り紙をして遊んだっけ。

 薬剤室で遊ぶなんて、今では夢のような話だが、それにしてもこうした記憶が10年の時を越えてロックミュージック「ヘッドライン・ハスラー」と結びついたのは、なぜなんだろう?「10CC」を聞いていた頃はまだ英語なんてよくわからなかったから、歌詞ではなくメロディーからの連想である事は間違いない。試みに歌詞を訳してみても、「いつか第一面を飾る記者(ヘッドライン・ハスラー)になるぞー」という内容だから、繋がりようがない。だから理由は謎のまま。無いですか?こういう経験。人生って、本当に何が起こるかわからないよなあ。

※ 「アンプル」とは、注射液などの薬剤を入れて密閉されたガラス製の容器のこと。画像検索すると今でも存在しているようだが、さすがにハート型の石?は出てこないようだ・・・いや待て。あるじゃん!「アンプルカッター」。砂を固めて作るんですか。懐かしい!まるでこの分野だけ時間が止まってるみたい。