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 昔は良かった…

 「昔は良かった…」といえば、「今どきの若いもんは…」と並んで、年寄りの愚痴の典型みたいなことになっている。僕はまだ年寄りではないが、なぜかここ5~6年、「昔は良かった」と思うことが多くなった。でもこれって、いくらなんでも早すぎないか?

 前回の記事で紹介した「ダニー・ケイとニューヨーク・フィルの夕べ」というコンサート、これは1981年に催されたんだけど、この時ダニー・ケイはすでに70歳。老骨に鞭打って指揮者を演じ(?)、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。これぞエンターティナーとでも言うべき芸達者ぶりだった。そして彼はこの抱腹絶倒のコンサートをささやかなスピーチで締めくくっている。

 「皆さんは今日、素晴らしいことをしたのです。」彼はこう切り出し、人生のすべてを音楽にささげた楽士たちと、その楽士たちの演奏に耳を傾け、惜しみない拍手を送る観客が、互いに支えあってこのコンサートを素晴らしいものにしたのだと語った。それは一流の芸人として生きてきた彼自身の感謝の言葉でもあったと思う。そして彼はこう続ける。

 「私たちは奇跡に満ちた愛すべき国に生きています。」アメリカはあらゆる国籍、人種、宗教の人々に扉を開いている。そして基本的な自由がある。だから人々はアメリカに魅了されるのだ、と。このコメントはユダヤ系移民の子供として生まれ、その才能を認められて成功した彼の実感だったに違いない。だがもちろん、アメリカはすべての人々に寛容だったわけじゃない。

 当時のアメリカも、水面下では人種差別や紛争など、多くの問題を抱えていた。それでも理想を捨てなかったから、そこに夢や希望が生まれたのだろう。ダニー・ケイは長年にわたってそんな夢を支えてきたエンターティナーの一人だった。

 彼の没年は1987年。あれから40年近くが過ぎ、世界にその名を知られるようなエンターティナーの話題は聞かなくなった。古き良きエンターティンメントは滅びてしまったんだろうか。実際のところ、今のアメリカにはささやかな夢すら生き残れそうにない排他的な雰囲気が蔓延している。一部の人々にとって、今後さらに住みにくい国になるであろうことは火を見るよりも明らかだ。アメリカにとって、「昔は良かった」という言い回しは単なる年寄りの常套句ではなく、現実の問題になりつつある。日本はどうだろう。世界は?

 そのうち、僕も年寄りと言われる時代が来るだろう。そんな僕が「昔は良かった」とつぶやいたときに、「また爺さんの『昔は良かった』が始まったよ」なんて言われるような世の中だといいんだけど。今を生きる若者から、「ホント、その通りですね」なんて言われるようじゃ、それこそ後がないもんな。

作成者: 835776t4

こんにちは。好事家の中年(?)男性です。「文化人」と言われるようになりたいなあ。

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