そういえば、そんなことがあったっけ
9月のはじめのある日、娘の仕事の都合で、午前4時に起きて朝食を作る羽目になった時のこと。外は晴れていたがまだ暗く、空気も9月の上旬にしてはひんやりしていたので、2階の広縁のガラス戸を全開にした。何気なく空に目をやると、東の空にはオリオン座があった。そこから天頂に向かって視線を移した瞬間、流星が飛んだ。流星を見るなんて、何年ぶりだろう。それも見上げたとたんにその視野の中を流れるとは。もっと流れないかとしばらく見上げていたが、残念ながらその時はその一つだけしか見ることができなかった。
その2日後、同じ理由で4時起きし、同じようにガラス戸を開け、空を見上げた。この日も満天の星空だったが、さすがに流星は流れなかった。でもこの日は別のものが見えた。直線的にゆっくり移動する星のような光点。でも瞬かない。僕はもと天文ファンだから、「UFOだ!」なんてことは言わない。その動きからすると、これは人工衛星(※)に違いない。2日前の流星と同じあたりを、南西から北東へと横切っていく。いやあ、近々で2回、流星と人工衛星を同じ時間帯に、しかも同じ視野の中で見るなんて。こうした偶然が重なると、人はちょっと幸福感を感じたりする。
僕の特技の一つにマティーニを目分量でカクテルグラスきっちりの量に仕上げる、というのがある。僕はシェイクするタイプが好きなのだが、シェイカーの中の氷の量によっても注ぐジンの目分量は毎回変わる。少々加えるベルモットも目分量。だが10回に7~8回はグラスきっちりの量で仕上がる。とてもいい気分だ。最近ではうまくいかなかったときなど、何か悪いことが起こるのではないかと、夜も眠れないぐらいだ(ウソです)。
反対にほとんどうまくいかない、ということもある。それはペペロンチーノを作るときの塩加減。ちょっと多めかな、と思ってもほとんどの場合、味が薄くなってしまう。ペペロンチーノが好きで、休日の昼食などに数えきれないほど作ってきたが、味がピタリと決まったことは2~3回しかない。たまにベーコンや玉ねぎを加えてアレンジすることがあるが、これだと難なく味がまとまる。だが正統派のスタイルは塩の量だけで味が決まる。この塩梅が難しい。僕も今更塩の量をきっちり計ろうなどとは思わないので、毎回そんなことで一喜一憂する。まるで人生について教えられているような気分だ。最近ではあきらめの境地に達しかけている。人生を、ではない。ペペロンチーノの味付けの話だ。
これからも幾杯ものマティーニを作り、ペペロンチーノを作るだろう。そのたびにちょっといい気分になったりがっかりしたりしながら生きていく。まあ、それも人生ということで。そうだ、最近とんとご無沙汰だったが、たまには昔のように、夜空を見上げることもしようかな。今回のように、ちょっといい気分になれることがあるかもしれない。
※ 国際宇宙ステーションなど、主だった人工衛星は日本上空の通過予定時刻や見える方位をネットで知ることができる。